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ベトナム政府が今、国家発展の新たな局面において「土地」という最も基礎的な資源の管理制度を大きく見直そうとしている。土地の収用(Thu hồi đất)、補償(bồi thường)、支援(hỗ trợ)、再定住(tái định cư)という一連のプロセスは、国家による土地管理の中でも最も重要な要素であり、社会経済発展のための「土地基金(quỹ đất)」を創出する上で決定的な役割を果たす。特に近年、ベトナムはメトロ(都市鉄道)事業と、公共交通指向型都市開発(TOD:Transit Oriented Development)モデルによる都市開発を強力に推進しており、これに対応した土地収用・再定住政策および土地基金活用メカニズムの整備が急務となっている。
土地収用・補償・再定住制度の重要性
ベトナムにおいて土地はすべて「人民全体の所有」であり、国家がその管理者として土地使用権を配分・収用する権限を持つという社会主義的な土地制度が根幹にある。この制度のもとでは、道路、鉄道、公共施設、産業団地、都市開発などのインフラ整備を進める際、国家が私人や企業から土地使用権を「収用」し、その対価として補償金の支払いや代替地の提供、生活再建のための支援策を講じる必要がある。この一連の手続きが適正かつ透明に行われるかどうかは、プロジェクトの進捗速度だけでなく、社会の安定、住民の権利保護、さらには国家に対する国民の信頼にも直結する、極めて政治的にも重要なテーマである。
ベトナムでは過去、土地収用に伴う補償額の不透明さや、再定住先の環境整備の遅れなどが原因で、住民との紛争や社会不満が繰り返し発生してきた経緯がある。ハノイやホーチミン市(ベトナム最大の商業都市)近郊の大型インフラ事業では、用地引き渡しの遅延がプロジェクト全体の完成時期を数年単位で後ろ倒しにするケースも少なくなかった。今回の政策議論は、こうした過去の課題を踏まえ、新時代(kỷ nguyên mới)にふさわしい、より効率的で公正な土地資源の活用モデルを構築しようとする狙いがある。
メトロ事業とTOD型都市開発への布石
ベトナム政府は現在、ハノイおよびホーチミン市を中心に、複数のメトロ(都市鉄道)路線の整備を国家的な重点プロジェクトとして位置づけている。両都市ではすでに一部路線が開業しているものの、慢性的な交通渋滞や大気汚染の解決には、より広範なネットワーク整備が不可欠とされている。そこで注目されているのが「TOD(公共交通指向型開発)」という都市開発モデルだ。TODとは、鉄道駅やバスターミナルなどの公共交通拠点を中心に、高密度な住宅・商業・オフィス機能を集約的に配置する都市開発手法であり、日本の東京圏や大阪圏における私鉄沿線開発(いわゆる「駅前開発」モデル)にも通じる考え方である。実際、日本はJICA(国際協力機構)などを通じてベトナムのメトロ整備に長年協力してきた実績があり、TODモデルの導入においても日本の知見が参考にされる可能性が高い。
TOD型都市開発を実現するためには、鉄道駅周辺の土地を計画的に収用・再編し、開発権を適切に配分する仕組みが不可欠となる。単に鉄道を敷設するだけでなく、その沿線の土地価値の上昇分(開発利益)を都市開発の財源として活用する「土地価値捕捉(land value capture)」の発想が、今回の政策議論の核心にある。つまり、鉄道整備によって上昇した周辺地価の一部を、再定住支援や公共インフラ整備の財源に還元する仕組みを構築することが、今後のベトナムの都市開発政策における重要な論点となっている。
土地基金創出をめぐる制度的課題
ベトナムでは2024年に施行された新土地法(Luật Đất đai 2024)により、土地収用や補償に関する規定が大幅に更新された。今回報じられた議論は、この新土地法の実務運用をさらに深化させ、特に大型インフラ・都市開発プロジェクトに適した「土地基金」創出の仕組みを整備しようとするものである。土地基金とは、国家が事前に収用・整備した土地を、後の開発事業者への譲渡や競売(オークション)を通じて活用するための土地在庫のことを指す。これにより、民間デベロッパーが個別に地権者と交渉する手間を省き、開発スピードを大幅に向上させることが期待されている。
ただし、こうした制度を機能させるには、補償額の算定基準の公正性、再定住先の生活環境の質、そして地権者への十分な情報公開といった要素が不可欠だ。特にメトロ駅周辺のような高付加価値エリアでは、収用対象となる住民の反発が強まりやすく、政府としては経済合理性と社会的公正性のバランスをいかに取るかが問われている。
投資家・ビジネス視点の考察
この土地政策の整備は、ベトナムの不動産セクターおよび建設・インフラ関連銘柄にとって中長期的にポジティブな要因となり得る。メトロ路線沿線やTOD対象エリアでの用地確保がスムーズに進めば、ヴィングループ(ベトナム最大手のコングロマリット)傘下のヴィンホームズ(Vinhomes)をはじめとする大手デベロッパーや、建設セクターのコインコングループ(Coteccons)、ホアファット(Hoa Phat、鉄鋼大手)といった企業にも間接的な事業機会が広がる可能性がある。また、鉄道関連の設備投資や都市インフラ整備は、日本企業にとっても商機となり得る分野だ。既にハノイメトロやホーチミン市メトロ1号線には日本の商社・ゼネコンが関与しており、TODモデルの本格導入は、日本の都市開発ノウハウを活かした新たな協業の余地を広げるだろう。
マクロ的に見れば、こうした制度整備はベトナムのインフラ投資環境の透明性向上に資するものであり、外国人投資家からの評価にもプラスに働く可能性がある。2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けては、市場アクセスの改善に加え、こうした法制度・行政インフラの整備状況も、外国資本の中長期的な信頼構築に寄与する材料の一つとなる。土地収用・補償制度の透明化は直接的な株式市場評価指標ではないものの、ベトナムが「投資しやすい国」としての体制整備を進めているという大きな文脈の中で捉えるべきテーマだ。今後、具体的な法改正やメトロ関連プロジェクトの進捗が発表される際には、関連する不動産・建設・インフラ銘柄の動向に注目したい。
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