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ベトナム政府が、企業の「実質的所有者(chủ sở hữu hưởng lợi)」の定義と認定基準を標準化する法令改正案を打ち出した。今回の決議草案(Dự thảo Nghị quyết)では、間接所有者の認定に関する規定を新たに追加し、間接所有、共同所有・共同支配、そして多層的な出資構造(複数の法人を経由して実質的な支配権を持つ複雑な資本構成)における従来の規定の不備を是正することを目的としている。マネーロンダリング(資金洗浄)対策やテロ資金供与対策の実効性を高める狙いがあり、ベトナムの企業統治・金融規制の透明性強化における重要な一歩と位置づけられる。
「実質的所有者」とは何か
「実質的所有者」とは、法律上の名義人(登記簿上の株主や役員)ではなく、実際にその企業を支配し、あるいは経済的利益を最終的に享受している自然人を指す国際的な概念である。日本でも犯罪収益移転防止法などにおいて類似の概念(実質的支配者)が存在し、金融機関の口座開設時や法人設立時の本人確認(KYC)手続きで重要な役割を果たしている。国際的には、FATF(金融活動作業部会)がマネーロンダリング対策・テロ資金供与対策の国際基準としてこの概念を強く推奨しており、加盟国・地域に対して実質的所有者の透明性確保を求めている。
ベトナムにおける現行制度の課題
ベトナムでは近年、企業法や反マネーロンダリング法の改正を通じて「実質的所有者」の概念が徐々に導入されてきたが、実務上はさまざまな不備が指摘されてきた。特に問題視されているのが、以下のようなケースである。
間接所有・多層出資構造への対応強化
第一に、ある企業の株式を直接保有せず、複数の子会社や関連法人を経由して間接的に支配権を持つ「間接所有」のケースだ。第二に、複数の株主が共同で企業を所有・支配する「共同所有・共同支配」のケース。そして第三に、持株会社やペーパーカンパニーを何層にも重ねることで、最終的な受益者・支配者を特定しにくくする「多層的な所有構造」である。こうした複雑な資本構成は、国際的な脱税スキームやマネーロンダリングの温床となりやすく、当局による実態把握を困難にしてきた。今回の決議草案は、まさにこの間接所有者の認定基準を明文化することで、企業の実態をより正確に捕捉できる法的枠組みを整備しようとするものだ。
規制強化の背景にある国際的圧力
ベトナムは2023年にFATFの「グレーリスト(監視対象国リスト)」入りを回避するため、マネーロンダリング対策・テロ資金供与対策の法整備を急速に進めてきた経緯がある。実質的所有者の透明性確保は、FATFの40の勧告の中でも特に重視される項目の一つであり、国際金融システムへのアクセスや外国投資家からの信頼獲得に直結する。今回の基準明確化は、こうした国際的な要請に応える形で進められているとみられる。
投資家・ビジネス視点の考察
この規制強化は、ベトナム株式市場や外国人投資家にとって中長期的にプラスに働く可能性が高い。実質的所有者の透明性が高まれば、企業のガバナンス水準に対する信頼性が向上し、特に機関投資家からの資金流入を後押しする材料となり得る。これは、2026年9月に決定が見込まれるFTSEラッセルによる新興国市場への格上げ判断においても、間接的にプラス材料として評価される可能性がある。FTSEの格上げ基準には市場インフラの整備状況や規制の透明性も含まれており、コーポレートガバナンス関連の法制度強化は、ベトナム証券市場の「先進国基準」への接近を示すシグナルとして受け止められるだろう。
一方で、日本企業を含む外国投資家にとっては、ベトナム国内での持株会社設立や合弁事業のスキーム構築において、実質的所有者の開示義務がより厳格化される可能性がある点に留意が必要だ。特に、税務上の優遇措置を目的とした多層的な持株構造(例えば、シンガポールや香港などの第三国を経由した投資スキーム)を採用している企業は、今後の詳細な施行規則(Nghị định)や通達(Thông tư)の内容を注視する必要がある。金融機関、不動産、証券会社など、実質的所有者の申告が求められる業種を中心に、コンプライアンス体制の見直しが迫られる可能性も否定できない。
ベトナム経済全体の文脈で見れば、これは同国が「投資先としての信頼性」を高めるための制度整備の一環であり、外資誘致と国際基準への準拠を両立させようとする政府の姿勢の表れといえる。銀行株や証券株など、規制対応のコストが直接的に影響するセクターの動向は、今後の施行細則の発表と合わせて注視すべきポイントとなるだろう。
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