ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナム商工会議所(VCCI=Vietnam Chamber of Commerce and Industry、ベトナムの経済団体で企業の利益代弁や政策提言を担う中心組織)のホー・シー・フン会長が、現在のベトナムにおける法制度の急速な変化が企業活動に深刻な混乱をもたらしていると指摘した。旧規定が失効した一方で、それに代わる新たな施行細則や指導文書がまだ整備されておらず、多くの企業が「旧規定に従えば時代に合わず支障が出る一方、従わなければ違反とみなされる」という板挟みの状態に置かれているという。
法制度の「空白期間」が生む企業の混乱
ホー・シー・フン会長の発言は、ベトナムが近年進めている大規模な行政・法制度改革の副産物ともいえる現象を浮き彫りにしている。ベトナムでは近年、投資法、企業法、土地法、税務関連法規など多岐にわたる法律の改正が相次いで行われており、さらに2025年に実施された省・市の統合(行政区画再編)など、行政組織そのものの大規模な変更も進行中だ。こうした改革は中長期的にはビジネス環境の透明化・効率化に資するとされるが、短期的には「旧法が失効したのに新法の施行細則(ガイドライン)がまだ公布されていない」という制度的な空白を生み出している。
この空白期間において、企業側は非常に難しい判断を迫られる。旧規定を引き続き適用しようとすれば、既に効力を失った法令に基づく行為として当局から問題視されるリスクがある。一方で、まだ具体的な運用指針が示されていない新法の趣旨を独自に解釈して事業を進めれば、後になって「解釈が誤っていた」「規定に違反していた」として摘発されるリスクを抱える。つまり、どちらを選んでも法的リスクから完全に逃れることができないという、企業にとって極めて不安定な状況が生まれているのだ。
VCCIが指摘する構造的な問題
VCCIは長年、ベトナムの民間企業・外資企業の声を政府に届ける役割を担ってきた組織であり、今回のホー・シー・フン会長の発言も、こうした現場からの声を集約したものとみられる。会長は、法律の制定・改正のスピードと、施行細則や実務ガイドラインの整備スピードとの間に大きなギャップが生じている点を問題視している。中央省庁レベルでは法改正の方向性が示されても、それを実際の許認可窓口や地方当局の運用レベルまで落とし込む作業には時間がかかり、結果として現場では判断基準が定まらない状態が続く。
ベトナムはこれまでも「法律は理念、施行細則は現実」という二重構造のもとで運用されてきた面があり、法律が公布されてから実際に機能するまでに一定のタイムラグが発生することは珍しくなかった。しかし今回指摘されているのは、単なるタイムラグではなく、旧規定が既に失効しているにもかかわらず新規定の運用指針が存在しないという、より深刻な「制度的真空状態」である点が特徴だ。
企業のコンプライアンス対応への影響
このような状況は、特に許認可、税務申告、土地利用、投資登録手続きなど、行政手続きへの依存度が高い事業分野において企業活動を停滞させる要因となる。担当者が窓口に問い合わせても明確な回答が得られず、判断が地方や担当官によって異なるケースも生じやすい。結果として、企業はプロジェクトの遅延や追加コストの発生を余儀なくされることになり、特に投資判断のスピードを重視する外資企業にとっては、事業計画の見直しを迫られる要因ともなりかねない。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のVCCI会長の発言は、ベトナム株式市場や対ベトナム投資を検討する日本企業にとっても軽視できないシグナルである。ベトナムは2026年9月にFTSEラッセルによる新興市場(Secondary Emerging Market)への格上げ決定が見込まれており、外国人投資家の関心は年々高まっている。しかし、格上げが実現しても、その受益企業が実際に事業を円滑に進められるかどうかは、こうした法制度の運用実態に大きく左右される。制度の空白期間が長引けば、上場企業の決算や事業計画にも予期せぬ遅延リスクが発生し、投資家にとっては「制度リスク」を織り込んだ慎重な銘柄選定が求められることになる。
また、日本企業にとっても、ベトナムでの許認可取得や土地利用契約の更新、税務対応などにおいて、現場の運用が固まっていない時期は特に注意が必要だ。現地の法律事務所やコンサルティング会社と密に連携し、最新の運用状況を継続的に確認する体制を整えることが、リスク回避の観点から重要になってくるだろう。ベトナムの改革は長期的にはビジネス環境の改善につながるものであり、今回の混乱は「成長痛」とも言えるが、短期的な不確実性への備えは投資家・進出企業双方にとって欠かせない視点である。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント