今朝、ハノイのオフィスに向かう途中、FPT本社の前を通りかかりました。相変わらず多くの社員が出入りしていて、ベトナムIT業界の勢いを肌で感じています。
ところで、最近投資家の方々から「FPTってどうなんですか?」という質問をよくいただくんです。確かに、ベトナム株投資を考える上でFPTは避けて通れない銘柄の一つですよね。
FPTは1988年に設立されたベトナムを代表するIT企業で、現在では東南アジア最大級のITサービス企業に成長しています。主力事業はIT、通信、教育の3本柱で構成されており、特にソフトウェア開発やシステム・インテグレーション、デジタル変革(DX)支援などで強みを発揮しています。
現在の株価は126,000VND、時価総額は約1,866億VNDという規模感です。これは日本円にすると約8,300億円程度になりますから、相当大きな企業だということがお分かりいただけると思います。
基本情報
会社名: CONG TY CO PHAN FPT (VN)
英語名: FPT CORPORATION (EN)
証券コード: FPT
設立日: 1988年9月13日
株式会社化: 2002年3月
上場日: 2006年12月13日
所在地: 10 Pham Van Bach Str., Dich Vong Ward, Cau Giay Dist., Ha Noi
電話: (84-24) 7300 7300
FAX: (84-24) 3768 7410
URL: http://www.fpt.com
Email: ir@fpt.com
株式情報(2025年7月15日現在)
資本金: 14,813,301,220,000 VND
流通株式数: 1,481,330,122 株
株価(終値): 126,000 VND
時価総額: 186,647,595,372,000 VND
外国人保有率: 41.00%(2025年7月15日現在)
財務データ(単位:100万VND、期末時点の株価のみ1,000VND)
損益計算書データ
年度 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025/Q1 | 2025予想 |
---|---|---|---|---|---|
流動資産 | 30,937,711 | 36,705,752 | 45,535,943 | 46,075,511 | N/A |
非流動資産 | 20,712,693 | 23,577,076 | 26,464,053 | 27,922,162 | N/A |
資産の部 | 51,650,404 | 60,282,828 | 71,999,996 | 73,997,673 | N/A |
負債の部 | 26,294,279 | 30,349,816 | 36,272,456 | 36,101,018 | N/A |
資本の部 | 25,356,125 | 29,933,011 | 35,727,540 | 37,896,655 | N/A |
売上高 | 44,009,528 | 52,617,901 | 62,848,794 | 16,058,141 | 74,508,000 |
営業利益 | 6,794,557 | 8,451,627 | 10,508,347 | 2,595,125 | N/A |
税引前利益 | 7,662,283 | 9,203,006 | 11,069,666 | 3,024,694 | 13,332,000 |
税引後利益 | 6,491,343 | 7,788,050 | 9,427,423 | 2,595,567 | N/A |
期末時点の株価 | 76.90 | 96.10 | 152.50 | 121.00 | 135.90 |
各種財務指標
指標 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025/Q1 | 2025予想 |
---|---|---|---|---|---|
ROA(総資産利益率)% | 12.21 | 13.92 | 14.25 | 3.56 | N/A |
ROE(株主資本利益率)% | 27.76 | 28.17 | 28.72 | 7.05 | N/A |
BPS(1株あたり純資産)VND | 23,114 | 23,570 | 24,287 | 25,761 | N/A |
PBR(株価純資産倍率)倍 | 3.33 | 4.08 | 6.28 | 4.70 | N/A |
EPS(1株あたり利益)VND | 4,429 | 4,661 | 4,944 | 1,478 | 6,316 |
PER(株価収益率)倍 | 17.36 | 20.62 | 30.85 | N/A | 21.52 |
NPM(当期利益率)% | 14.75 | 14.80 | 15.00 | 16.16 | N/A |
配当(VND) | 2,000 | 2,000 | 2,000 | N/A | N/A |
配当利回り(%) | 2.60 | 2.08 | 1.31 | N/A | N/A |
資本の変遷
時点 | 資本金(10億VND) |
---|---|
2024年6月 | 14,604,481 |
2024年10月 | 14,710,692 |
2025年5月 | 14,813,301 |
大株主構成(2025年6月19日現在)
株主分類 | 保有株式数(株) | 保有率(%) |
---|---|---|
政府 | 83,987,511 | 5.67 |
国内 | 789,997,261 | 53.33 |
海外 | 607,345,350 | 41.00 |
金庫株 | なし | なし |
5%以上を保有する主要株主(2025年5月23日現在)
株主名 | 保有株式数(株) | 保有率(%) |
---|---|---|
チュオン・ザー・ビン氏 | 102,041,710 | 6.89 |
国家資本投資経営総公社(SCIC) | 83,987,511 | 5.67 |
子会社・関連会社(2024年12月31日現在)
会社名 | 資本金(10億VND) | 保有率(%) |
---|---|---|
FPTソフトウェア | 6,250 | 100.00 |
FPT教育 | 4,000 | 100.00 |
FPT情報システム(FPT IS) | 1,350 | 100.00 |
スマート・クラウド | 1,000 | 100.00 |
FPT投資 | 1,000 | 100.00 |
事業内容
企業概要
- ベトナムを代表する情報技術(IT)最大手で、東南アジア最大のITサービス企業
- IT、通信、教育の3部門を軸に事業を展開
- 全国63省・市すべてに通信インフラを展開、ベトナムと海外を結ぶ通信容量4890Gpbsのケーブル、国内に4か所のデータセンターを保有(2024年末)
- 国内に半導体チップ・先端技術研究開発(R&D)センター、半導体インキュベーションセンター、半導体スタートアップ向けインキュベーション施設を展開(2024年末)
- ベトナムと日本に人工知能(AI)ファクトリー2か所を展開、2025年中に稼働予定
- 世界で5000万人超のユーザーを獲得(2024年末)
部門別売上構成比(2024年)
- IT: 62%
- 通信: 28%
- 教育・投資などのその他部門: 10%
IT部門(売上構成比62%)
ソフトウェア開発、システム・インテグレーション、ITサービス、デジタル変革(DX)、人工知能(AI)などを手掛ける
主要実績・計画
- 2023年に初めて海外市場でのITサービス売上高10億USDを達成。日本、米州地域、アジア・太平洋地域が主要市場
- 2024年11月、強力なライバルであるインド企業に競り勝ち、米国企業からデジタル変革プロジェクトに関する契約を獲得。契約額は2億2500万USDによる
- IT大国として知られるインドの企業に競り勝ったことは、FPTだけでなくベトナムのIT産業にとっても重要な節目となる
海外市場向けITサービス売上構成
- 自動車分野向け: 27%
- 物流向け: 16%
- エネルギー向け: 10%
- 金融・銀行向け: 9%
- その他: 38%
通信部門(売上構成比28%)
通信サービス(インターネット、データセンター、ビデオ会議、モノのインターネット=IoTなど)、有料テレビ(FPT Playをはじめとするインターネットをプラットフォームとしたサービス)、デジタル・コンテンツ・サービス(VNExpress、Ngoisao.netなどの人気情報サイト、オンライン広告、スマート広告システム)を提供
教育部門(売上構成比10%)
ベトナム国内28省・市に小中高校、短期大学「FPT Polytechnic」、FPT大学、国際ライセンスを持つプログラマーを養成する「FPT Aptech」、マルチメディアデザイナーを養成する「FPT Arena」などを展開(2024年末)
事業戦略・投資計画
2025年事業計画
業績目標
- 売上高: 前年比+20%増の75兆4000億VND
- 税引前利益: 同+21%増の13兆3950億VND
- この目標を達成すれば、売上高の過去最高を更新し、5年連続で年間+20%超の成長を遂げる見通し
株主還元・資本政策
- 2025年の現金配当は額面比20%(1株2000VND)で実施
- 既存株主を対象に新株2億2200万株を発行する無償増資を行う。発行後の資本金は14兆7110億VNDから16兆9330億VNDへ引き上げられる
中長期戦略
- 2027年までに日本市場による売上高を10億USDに増やす
- 2030年の海外市場でのITサービス売上高50億USDを目指す
- 2030年までに世界的なテクノロジー企業トップ50にランクインすることを目指す
M&A戦略(2023年以降の主要案件)
- 2023年2月: 米インターテック・インターナショナル(Intertec International)のITサービス部門を買収
- 2023年11月: 米市場で創業20年の歴史を持つITサービスプロバイダーであるカーディナル・ピーク(Cardinal Peak)を買収
- 2023年12月: フランスに拠点を置く技術コンサルティング会社AOSIS社を買収
- 2025年5月: ドイツのエネルギー分野に特化したITコンサルティング企業「デイビッド・ラム・コンサルティング(David Lamm Consulting)」を買収
5つの重点事業分野
半導体
- 2023年11月、国家イノベーションセンター(NIC)および米国の非営利団体TreSemi(TreSemi)との間で、ベトナム半導体教育センター(VSHE)の設立に関する提携契約を締結
- 半導体チップ事業を拡大、2030年までに1万人の技術者チームを養成
AI(人工知能)
- 人材戦略として、2030年までにAIエンジニア5万人を養成し、50万人の労働者にAIに関するスキルと知識を提供することを目指す
- 2023年10月: 米ランディングAI(Landing AI)と間で、AI開発とAI人材育成に関する戦略的協力覚書を締結
- 2024年4月: 米エヌビディア・コーポレーション(Nvidia Corporation)との間で、包括的・戦略的協力に関する覚書(MOU)を締結
- 2024年10月: シンガポール国立大学(NUS)コンピューティング学部との間でAI開発に関する協力覚書を締結
自動車
- 自動車業界向け分野、特に自動車の設計部門を手掛ける企業の合併・買収を行う計画
- また、自動車向けソフトウェアの開発を強化
デジタル変革
- 全世界30都市・市場でデジタル変革推進に関する提携契約を締結(2023年末)
- 2024年3月: ドイツのシーメンス(Siemens)との間でスマートシティやデジタル変革推進、半導体チップ製造、車載ソフトウェア開発などに関する提携覚書を締結
- 2024年5月: 米アント・デジタル・テクノロジーズ(Ant Digital Technologies)との間で金融分野のテクノロジーソリューション事業提携に関する覚書(MOU)を締結
グリーン変革
- 2020年2月: Carbon FX株式会社(東京都港区)との間でベトナムでのカーボンクレジットビジネスの発展促進に関する覚書(MOU)を締結
- 2024年4月: 米国際開発庁(USAID)との間でクリーンエネルギーの促進に向けた「ベトナム低排出エネルギープログラムII(V-LEEP II)」に関する協力協定を締結
投資のポイント・リスク要因
強み
- 東南アジア最大のITサービス企業としての地位
- 海外展開の成功(2023年に海外ITサービス売上高10億USD達成)
- 多角化された事業ポートフォリオ(IT・通信・教育の3本柱)
- 政府のデジタル化政策の恩恵を受ける立場
- 強固な財務基盤(ROE28%超、営業利益率15%超)
- 積極的なM&A戦略による成長加速
リスク要因
- 人材確保競争の激化(IT人材の奪い合い)
- 為替変動リスク(海外売上高比率の高まり)
- 競合激化(インド系IT企業との競争)
- 技術革新への対応遅れのリスク
- 経済減速による企業のIT投資抑制
投資判断のポイント
- 海外市場での更なる成長が株価上昇の鍵
- AI・半導体などの先端技術分野での競争力
- M&A効果の収益への反映度
- 2025年の成長目標(売上高+20%増)達成度
まとめ
FPTは、ベトナムを代表するIT企業として確固たる地位を築いており、海外展開も順調に進展している。特に2024年に米国企業から大型契約を獲得したことで、グローバル市場での競争力を証明した。2025年も高い成長目標を掲げており、AI・半導体などの先端分野への投資も積極的に行っている。財務指標も良好で、長期的な成長が期待できる銘柄といえる。
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