ベトナムの建設現場の近くを通ると、必ずと言っていいほどホアファット(HPG)の鉄筋が使われているのを目にします。青いロゴが特徴的で、ベトナムの建設ブームを支える存在として、その存在感は圧倒的です。
ハノイでもホーチミンでも、高層マンションや商業施設の建設ラッシュが続いていますが、その多くでホアファットの製品が使われています。現地で生活していると、この会社がベトナムのインフラ整備にいかに深く関わっているかを実感します。
ホアファットグループは1992年に設立されたベトナム最大手の鉄鋼メーカーです。2007年に株式会社化し、同年11月にホーチミン証券取引所に上場を果たしました。多角化路線を歩んでおり、現在では鉄鋼事業を中核としながら、農業、不動産開発、家電製造など幅広い分野に事業を展開しています。
現在の株価は25,500VND、時価総額は約1,957億VNDという規模で、これは日本円換算で約8,700億円程度になります。外国人保有率は23%と適度な水準にあり、国内外の投資家からバランスよく評価されている印象です。
基本情報
会社名: CONG TY CO PHAN TAP DOAN HOA PHAT (VN)
英語名: HOA PHAT GROUP JOINT STOCK COMPANY (EN)
証券コード: HPG
設立日: 1992年
株式会社化: 2007年
上場日: 2007年11月15日
所在地: Pho Noi A Industrial Park, Nguyen Van Linh Commune, Yen My Dist., Hung Yen Province
電話: (84-24) 6284 8666
FAX: (84-24) 6283 3456
URL: http://www.hoaphat.com.vn
Email: ir@hoaphat.com.vn
株式情報(2025年7月15日現在)
資本金: 76,754,658,550,000 VND
流通株式数: 7,675,465,855 株
株価(終値): 25,500 VND
時価総額: 195,724,379,302,000 VND
外国人保有率: 23.00%(2025年7月15日現在)
財務データ(単位:100万VND、期末時点の株価のみ1,000VND)
損益計算書データ
年度 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025/Q1 | 2025予想 |
---|---|---|---|---|---|
流動資産 | 80,514,711 | 82,716,439 | 86,674,276 | 88,914,196 | N/A |
非流動資産 | 89,820,811 | 105,066,147 | 137,815,431 | 139,947,392 | N/A |
資産の部 | 170,335,522 | 187,782,586 | 224,489,707 | 228,861,588 | N/A |
負債の部 | 74,222,582 | 84,946,167 | 109,842,250 | 110,864,709 | N/A |
資本の部 | 96,112,940 | 102,836,419 | 114,647,458 | 117,996,879 | N/A |
売上高 | 141,409,274 | 118,953,028 | 138,855,112 | 37,621,675 | 169,842,000 |
営業利益 | 13,078,176 | 9,669,189 | 14,614,724 | 4,339,094 | N/A |
税引前利益 | 9,322,941 | 7,792,729 | 13,693,500 | 3,839,765 | 18,881,000 |
税引後利益 | 8,444,429 | 6,800,388 | 12,020,024 | 3,349,805 | 16,565,000 |
期末時点の株価 | 18.00 | 27.95 | 26.65 | 26.75 | 36.50 |
各種財務指標
指標 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025/Q1 | 2025予想 |
---|---|---|---|---|---|
ROA(総資産利益率)% | 4.85 | 3.80 | 5.83 | 1.48 | N/A |
ROE(株主資本利益率)% | 9.04 | 6.84 | 11.05 | 2.88 | N/A |
BPS(1株あたり純資産)VND | 16,529 | 17,685 | 17,924 | 18,448 | N/A |
PBR(株価純資産倍率)倍 | 1.09 | 1.58 | 1.49 | 1.45 | N/A |
EPS(1株あたり利益)VND | 1,452 | 1,117 | 1,751 | N/A | 2,296 |
PER(株価収益率)倍 | 12.40 | 25.02 | 15.22 | N/A | 13.58 |
NPM(当期利益率)% | 5.97 | 5.72 | 8.66 | 8.90 | 9.75 |
配当(VND) | 0 | 0 | 0 | N/A | N/A |
配当利回り(%) | 0.00 | 0.00 | 0.00 | N/A | N/A |
資本の変遷
時点 | 資本金(100万VND) |
---|---|
2022年6月 | 58,147,857 |
2024年6月 | 63,962,502 |
2025年4月 | 76,754,659 |
大株主構成(2025年7月4日現在)
株主分類 | 保有株式数(株) | 保有率(%) |
---|---|---|
政府 | なし | なし |
国内 | 5,986,863,367 | 78.00 |
海外 | 1,688,602,488 | 22.00 |
金庫株 | なし | なし |
5%以上を保有する株主(2025年6月5日現在)
株主名 | 保有株式数(株) | 保有率(%) |
---|---|---|
チャン・ディン・ロン会長 | 1,650,000,000 | 25.80 |
ティ・エン女史(ロン会長夫人) | 440,000,000 | 6.88 |
子会社・関連会社(2024年12月31日現在・保有率上位5社)
会社名 | 資本金(10億VND) | 保有率(%) |
---|---|---|
ホアファット鉄鋼 | 61,610 | 99.99 |
ホアファット鉄鋼製品 | 8,380 | 99.99 |
ホアファット農業開発 | 2,800 | 99.99 |
ホアファット不動産開発 | 6,800 | 99.97 |
ホアファット家庭用電化製品 | 1,000 | 99.90 |
事業内容
企業概要
高いブランド力を有し、最大手の鉄鋼メーカー。北部紅河デルタ地方ハイズオン省、南中部沿岸地方クアンガイ省ズンクアット経済区内で大規模な鉄鋼生産コンプレックスを展開。建設用鉄材や鋼管、鋼板を中心に取り扱う。
主力事業分野
鉄鋼事業(売上構成比93%)
生産能力・販売実績
- 粗鋼の年産能力は870万tで、東南アジア地域で最大(2024年末)
- 販売量(2024年):
- 鋼片・建設用鉄材・高品質鉄鋼・熱延鋼板(HRC): 811万t(うちHRC: 290万t、建設用鉄材・高品質鉄鋼: 448万t)
- 鋼管: 70万8000t
- 亜鉛メッキ鋼板: 44万6000t
市場シェア(2024年)
- 建設用鉄材: 38%(1位)
- 鋼管: 28%(1位)
- 鋼板: 8%
輸出実績(2024年)
- 鋼片・建設用鉄材・HRC: 263万t(輸出先は米国、オーストラリア、日本、韓国、シンガポール、欧州諸国などの世界40か国・地域以上)
- 鋼管・亜鉛メッキ鋼板・プレストレス鋼材: 33万0799t
競争力強化策
- グループ内で連携して生産体制を構築することにより、原材料を内部調達するなど仕入れコストを引き下げて競争力を高めている
- ハイズオン省の生産コンプレックス内で自社専用の発電所、クアンガイ省の生産コンプレックス内に大型船の寄港が可能な深水港をそれぞれ保有
- 積載量2.5万~9万tのばら積み貨物船5隻を保有しており、鉄鉱石や石炭、鉄鋼の輸送に利用
農業事業(売上構成比5%)
畜産業
- 豚飼育頭数(2024年): 56万5000頭
- 鶏卵販売量(2024年): 3億3000万個
- 西北部地方イエンバイや東北部地方バクザン省、ハノイ市などに養豚場、養鶏場、牛飼育場を所在
- 北部紅河デルタ地方フンイエン省や東南部地方カンナイ省で畜産飼料工場を運営
家電事業
- 北部紅河デルタ地方ハナム省で家庭用電化製品工場を運営
- 「ホアファット(Hoa Phat)」や「フニキ(Funiki)」ブランドの冷蔵庫、空気冷却器、浄水器、空気清浄機を製造
不動産事業(売上構成比2%)
工業団地開発・運営
- フォーノイA工業団地(北部紅河デルタ地方フンイエン省)
- 第2イエンミー工業団地(同)
- ホアマック工業団地(同地方ハナム省)
- ドンフック工業団地(東北部地方バクザン省)の工業団地4か所を開発・運営(2024年末)
市場別売上構成比(2024年)
- 国内: 69%
- 輸出: 31%
事業戦略・投資計画
2025年事業計画
業績目標
- 売上高: 前年比+22%増の170兆VNDで過去最高を見込んでおり、税引後利益は同+25%増の15兆VNDで過去2番目の水準を目指すとしている
- 2024年の現金配当を実施しない。これで3年連続の無配となる。2026年以降、経済にさらなる変動がなければ、現金配当を実施する
- 2024年の株式配当の実施に向けて割当比率5対1で新株12億8000万株を発行する。発行後の資本金は約77兆VNDへと引き上げられる
- 2025年の配当は額面比20%
主要投資プロジェクト
南中部沿岸地方クアンガイ省での鉄鋼生産拡張
- 展開中のズンクアット鉄鋼生産コンプレックス拡張案件は2025年1~6月期に第1期の試運転を開始した
- 第2期は2025年9月に稼働を開始する見込み
- 同案件が完成すれば、粗鋼の生産能力は約1500万tに増加する見込み
南中部沿岸地方フーイエン省での鉄鋼生産コンプレックス新設
- 投資総額は86兆VND、3年以内の完成を予定している
南部メコンデルタ地方ロンアン省でのトップングオイ工業団地での鋼管工場案件
- 敷地面積: 14.5ha
- 年産能力: 40万t
- 投資総額: 2兆5000億VND
- 稼働予定時期: 2025年
高速鉄道用レール製造ライン
ドイツSMSグループとの提携
- 2025年5月、ドイツの大手製鉄設備メーカーであるSMSグループ(SMS Group)との間で、鉄道用鋼材と形鋼の製造ラインの供給に関する契約を締結した
- この製造ラインは年間生産能力70万tで、完成まで約20か月を要し、2027年1~3月期の稼働開始を予定している
- 今回の投資により、HPGは東南アジアで初めて高速鉄道用鋼材を製造する企業となる見込み
- 生産される製品は高速鉄道用レール、都市鉄道用レール、クレーン用レールに加え、U、I、H、V形状の特殊鋼で、国内の重要鉄道プロジェクト向けに供給するとともに、海外市場への輸出も視野に入れている
- このプロジェクトを通じて、HPGは東南アジアにおけるレール鋼と特殊鋼の主要供給拠点としての地位を確立し、ベトナム国内外のインフラ整備を支える存在となることを目指す
ペトロベトナムグループとの包括提携
- 2025年5月、ペトロベトナムグループ(Petrovietnam Group=PVN)との間で、包括的な協力協定を締結した
- 金属・エネルギー分野におけるバリューチェーンの構築を目指す
- 両社は戦略的パートナーとして、投資・生産・事業の全面的な連携、資源の共有、製品・サービスの相互活用を進める
主な協力分野
- 鉄鋼生産向けの圧縮天然ガス(CNG)・液化石油ガス(LPG)・液化天然ガス(LNG)の供給・活用
- エネルギー・石油ガス業界向け合金鋼の開発
- インフラ・エネルギー・港湾分野における共同研究・投資など
事業拡張計画
- 貨物船15~20隻体制の構築を目指している
- 家庭用電化製品工場の年産能力を150万製品に拡大、海外市場にも輸出、2030年までに売上高10億USD、国内大手家電メーカーを目指す
- 運営する工業団地数を10か所に増やす。2025年から複数の工業団地を着工
投資のポイント・リスク要因
強み
- 東南アジア最大の鉄鋼メーカーとしての地位(粗鋼生産能力870万t)
- 国内建設用鉄材市場でのトップシェア(38%)
- 垂直統合された生産体制(原材料調達から製品まで)
- 充実したインフラ(自社発電所、深水港、貨物船保有)
- 多角化による事業リスク分散(農業、不動産、家電)
- 海外展開の実績(世界40か国・地域への輸出)
リスク要因
- 鉄鋼価格の変動(国際市況の影響を大きく受ける)
- 原材料価格の上昇(鉄鉱石、石炭価格の変動)
- 環境規制の強化(炭素排出規制など)
- 建設市場の景気変動(国内需要の変動)
- 競合他社の参入(外資系企業との競争)
- 為替変動リスク(輸出比率31%)
投資判断のポイント
- 2025年の高成長目標(売上高+22%増)の達成度
- 新工場稼働による生産能力拡大効果
- 高速鉄道用レール製造ラインの収益貢献
- ペトロベトナムとの提携効果
- 鉄鋼市況の回復時期
- 配当再開のタイミング
まとめ
このホアファットのデータを分析していて、正直言うと非常に興味深い投資対象だと感じています。なぜかというと、ベトナムの建設ラッシュを最も直接的に享受できるポジションにいるからです。
現地で生活していて実感するのは、ベトナムのインフラ整備がまだまだ序盤の段階だということです。高速道路、地下鉄、高層マンション、商業施設、工場建設など、至る所で工事が進んでいます。その全てでホアファットの鉄鋼製品が必要になるわけですから、需要の基盤は極めて堅固だと言えるでしょう。
特に注目すべきは、2025年5月にドイツのSMSグループと締結した高速鉄道用レール製造ラインの契約です。これによりホアファットは東南アジアで初めて高速鉄道用鋼材を製造する企業になる見込みです。ベトナムでは南北高速鉄道プロジェクトが本格化する見通しで、このタイミングでの参入は戦略的に非常に重要だと思います。
財務面では、2024年の業績回復が印象的です。売上高が前年比16.7%増、税引後利益が76.7%増と大幅に改善しています。これは鉄鋼市況の回復と設備投資効果が現れ始めたからでしょう。
ただし、気になる点もあります。3年連続の無配政策です。成長投資を優先する方針は理解できますが、投資家還元の面では物足りなさを感じます。また、鉄鋼事業は市況の影響を強く受けるため、業績の変動リスクも考慮する必要があります。
とはいえ、粗鋼生産能力870万トンという東南アジア最大の規模、国内建設用鉄材市場38%のシェア、そして2025年に1500万トンへの拡大計画など、スケールメリットは圧倒的です。
ペトロベトナムグループとの包括提携も注目ポイントです。エネルギー調達コストの削減や新たなビジネス機会の創出が期待できます。
2025年の業績目標である売上高22%増、利益25%増という強気な数字が達成できるかどうかが、株価の重要な分岐点になりそうです。ベトナムの成長ストーリーに投資したい方には、検討に値する銘柄だと考えています。
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