キンバックシティグループ(KBC)企業分析レポート – 2025年8月版【ベトナム株】

ハノイから車で少し北に向かうと、バクニン省の工業団地群が広がっています。その中でも特に目を引くのがキンバックシティグループが開発・運営する工業団地です。サムスンやLG、キヤノンといった世界的企業の工場が立ち並ぶ光景は、ベトナムの製造業発展を象徴する風景といえるでしょう。

実際に現地を訪れると、キンバックの工業団地がいかに計画的に開発されているかがよく分かります。道路、電力、水道、通信などのインフラが整備され、入居企業が即座に生産活動を開始できる環境が整っています。

キンバックシティグループは2000年3月27日に設立され、2002年に株式会社化、2007年12月にホーチミン証券取引所に上場した工業団地開発大手です。複数の大規模工業団地を運営している工業団地開発大手として、ベトナムの製造業発展を支える重要な役割を担っています。

現在の株価は28,100VND、時価総額は約265億VNDという規模で、これは日本円換算で約1,180億円程度になります。外国人保有率が18%という水準にあり、国内投資家からの支持が厚い企業といえます。キンバックシティグループ(KBC)企業分析レポート – 2025年8月版

目次

基本情報

会社名: TONG CONG TY PHAT TRIEN DO THI KINH BAC – CTCP (VN)
英語名: KINH BAC CITY DEVELOPMENT HOLDING CORPORATION (EN)
証券コード: KBC
設立日: 2000年3月27日
株式会社化: 2002年3月27日
上場日: 2007年12月18日

所在地: Que Vo Industrial Park, Phuong Lieu Ward, Que Vo Town, Bac Ninh Province
電話: (84-22) 2363 4034
FAX: (84-22) 2363 4035
URL: http://www.kinhbaccity.vn
Email: info@kinhbaccity.vn

株式情報(2025年7月15日現在)

資本金: 9,417,547,590,000 VND
流通株式数: 941,754,759 株
株価(終値): 28,100 VND
時価総額: 26,463,308,727,900 VND
外国人保有率: 18.00%(2025年7月15日現在)

財務データ(単位:100万VND、期末時点の株価のみ1,000VND)

損益計算書データ

年度2022202320242025/Q12025予想
流動資産27,674,08025,029,44436,075,39145,585,081N/A
非流動資産7,232,4339,404,7778,654,5348,618,345N/A
資産の部34,906,51333,434,22144,729,92554,203,426N/A
負債の部17,060,99413,213,34824,085,01932,709,418N/A
資本の部17,845,51920,220,87320,644,90621,494,007N/A
売上高950,2665,618,4752,775,7733,116,8625,055,000
営業利益-244,6242,882,601725,5671,033,414N/A
税引前利益1,696,5852,891,160722,5271,124,5931,555,000
税引後利益1,576,5292,245,023423,033849,1011,240,000
期末時点の株価24.2031.7527.2030.6527.40

各種財務指標

指標2022202320242025/Q12025予想
ROA(総資産利益率)%4.816.571.081.57N/A
ROE(株主資本利益率)%9.2711.802.073.95N/A
BPS(1株あたり純資産)VND23,24826,34326,89528,001N/A
PBR(株価純資産倍率)倍1.041.211.011.09N/A
EPS(1株あたり利益)VND1,9932,6464981,0201,743
PER(株価収益率)倍12.1412.0054.62N/A15.72
NPM(当期利益率)%165.9039.9615.2427.2424.61
配当(VND)000N/AN/A
配当利回り(%)0.000.000.00N/AN/A

資本の変遷

時点資本金(100万VND)
2021年10月5,757,112
2022年6月7,676,048
2025年6月9,417,548

大株主構成(2025年7月4日現在)

株主分類保有株式数(株)保有率(%)
政府なしなし
国内781,656,45083.00
海外160,098,30917.00
金庫株なしなし

5%以上を保有する株主(2025年6月24日現在)

株主名保有株式数(株)保有率(%)
チュオン・ヴォック・ファン女史が代表の海外株主グループ147,122,94615.62
DTT開発投資865500009.19
チャンザー投資682483897.25
ダンタイン・グエ氏52,116,6655.53
PVI Asset Management50,000,0005.31

子会社・関連会社(2024年12月31日現在・保有率上位5社)

会社名資本金(10億VND)保有率(%)
チャンカット都市開発N/A100.00
NGD投資N/A100.00
フンイエン開発投資N/A93.93
サイゴンハイフォン工業団地N/A89.26
サイゴンバクザン工業団地N/A88.96

事業内容

企業概要

複数の大規模工業団地を運営している工業団地開発大手。KBC傘下では北部紅河デルタ地方を中心に全国で工業団地と産業クラスター計29か所を運営し、総面積は7014haに上り、全国の工業団地の5.05%を占める(2024年末)。

主要工業団地・実績

主力工業団地

  • クエボー工業団地第1期(北部紅河デルタ地方バクニン省)
  • ククアンチャウ工業団地(同)
  • クエボー工業団地第2期
  • チャンズ工業団地第1期(北部紅河デルタ地方ハイフォン市)
  • チャンズ工業団地第2期の入居率は100%に達している

入居企業の特徴

  • 韓国系サムスン(Samsung)、韓国系LG、日系キヤノン、台湾フォックスコン・テクノロジー・グループ(鴻海)、中国ラックスシェア(立訊精密工業)など数多くの大手企業を誘致
  • 外資系企業が入居企業の90%超を占める

不動産開発事業

  • 工業団地の他、都市区の開発も手掛けている
  • 都市区開発用地1470haを確保(2024年末)

戦略的提携・投資案件

トランプ・オーガナイゼーションとの提携

  • 2024年9月、傘下のフンイエンホテルサービス(HY Hospitality)とドナルド・トランプ元米大統領の一族が経営するトランプ・オーガナイゼーション(The Trump Organization)は、フンイエン省の高級不動産複合施設の開発に関する戦略的協力合意書を締結
  • 投資総額は15億USDの見込み

第3チャンズ工業団地

  • 2025年5月、ハイフォン市の第3チャンズ工業団地案件を着工
  • 用地面積は652ha超、投資総額は約8兆VND超

売上高構成比

2024年

  • 工業用地賃貸: 45.0%
  • 不動産譲渡: 32.8%
  • 水道・電力販売・下水処理等のサービス: 15.1%
  • 倉庫・工場・オフィス賃貸: 7.0%
  • その他: 0.1%

2025年1~3月期

  • 工業用地賃貸: 79.7%
  • 不動産譲渡: 13.2%
  • 水道・電力販売・下水処理等のサービス: 3.1%
  • 倉庫・工場・オフィス賃貸: 1.8%
  • その他: 2.2%

事業戦略・投資計画

2025年事業計画

業績目標

  • 売上高: 前年比3.6倍の10兆VND
  • 税引後利益: 同7.5倍の3兆2000億VND

工業団地開発計画

新規開発・拡張計画

  • 工業用地賃貸面積は、ナムソンハップリン工業団地、ダンフーチョン工業団地、フンイエン産業クラスター、第3チャンズ工業団地を合わせて計200ha超となる見通し
  • 東北部地方バクザン省ネン町の社会住宅(低所得者向け住宅)案件、チャンズ工都市区の社会住宅案件による売上高を計上
  • ハイフォン市で建設中のチャンカット都市区案件は敷地面積585haで、2025年中に開業

主要投資案件

東北部地方タイグエン省のフーピン工業団地案件

  • 用地面積: 675ha
  • 投資総額: 11兆4920億VND

バクニン省のフックニン新都市区案件

  • 敷地面積: 115ha
  • 投資総額: 4兆8920億VND
  • 完成予定時期: 2025年

10階建ての マンション・オフィス統合型のバクニン・チャウ・ファン・コンプレックス案件

  • 投資総額: 4兆ゴング超(2035年まで工期4年)

社会住宅・低所得者支援

  • 複数の社会住宅(政府・地方自治体が建設・購入を支援する工業労働者などの低所得者や公務員向け住宅)案件を開発する
  • 政府が投資方針を承認した案件は:
    • タンラップ工業団地(面積654ha)
    • ロックサン工業団地(同466ha)
    • タンラップ産業クラスター
    • フオックビントン産業クラスター
    • ダンレー産業クラスター
    • テンギア産業クラスター
    • キムドン産業クラスター
    • 第2クエボー拡張工業団地(面積140.3ha超)
    • 第2キムタイン工業団地(同235ha)

地域拡大戦略

  • バクニン省、バクザン省、タイグエン省、ハイズオン省(北部紅河デルタ地方)、ハイフォン市、ハウザン省(南部メコンデルタ地方)、ロンアン省(南部メコンデルタ地方)などを中心に工業団地開発用地を新たに取得する
  • 工業団地開発にあたり、大手メーカーを中心に売り込み、それを軸に下請け企業を誘致する戦略を取っている

投資のポイント・リスク要因

強み

  1. 戦略的立地(北部紅河デルタ地方の主要工業団地を運営)
  2. 大手企業の入居実績(サムスン、LG、キヤノン等)
  3. 高い稼働率(主力工業団地の入居率100%達成)
  4. 総合開発力(工業団地から都市開発まで)
  5. 政府支援(社会住宅開発等で政策的バックアップ)
  6. 多角化戦略(不動産開発、インフラサービス等)

リスク要因

  1. 景気変動の影響(製造業の投資動向に左右される)
  2. 競合他社の参入(工業団地開発の競争激化)
  3. 土地取得コスト上昇(開発用地の価格高騰)
  4. 規制環境の変化(外資企業誘致政策の変更)
  5. インフラ整備コスト(電力、水道等のインフラ投資負担)
  6. 地政学リスク(米中貿易摩擦等の影響)

投資判断のポイント

  • 2025年の高成長目標(売上高3.6倍増)の達成度
  • 新規工業団地の入居企業誘致状況
  • トランプ・オーガナイゼーションとの提携効果
  • 社会住宅案件の収益貢献度
  • ベトナムの製造業誘致政策の継続性
  • 主要入居企業の事業拡大計画

まとめ

このキンバックシティの分析を通じて感じるのは、ベトナムの製造業発展の恩恵を最も直接的に享受できるポジションにある企業だということです。現地で実際に彼らの工業団地を見学したことがありますが、その完成度の高さには驚かされました。

ただし、財務データを冷静に見ると、いくつか気になる点があります。まず2024年の業績が前年比で大幅に悪化していることです。売上高が56億VNDから27億VNDに半減、利益も22億VNDから4億VNDに大幅減少しています。

この業績悪化は、おそらく大型プロジェクトの売上計上タイミングの違いによるものと推測されますが、2025年の目標である売上高3.6倍増という数字は、かなり野心的だと感じています。工業団地開発事業の特性上、大型案件の完了・引き渡し時期によって業績が大きく変動するリスクがあります。

一方で、注目すべきは入居企業の質の高さです。サムスン、LG、キヤノンといった世界的企業が入居しているということは、キンバックの開発・運営能力が国際水準にあることを示しています。また、主力工業団地の入居率100%達成というのも、需要の強さを物語っています。

トランプ・オーガナイゼーションとの15億USD規模の提携合意は話題性が高いものの、実際の収益貢献までにはまだ時間がかかるでしょう。むしろ注目すべきは、第3チャンズ工業団地など継続的な工業団地開発プロジェクトの進捗です。

PERが54.62倍という高い水準にあることも気になります。これは2024年の業績悪化による一時的な現象かもしれませんが、投資タイミングとしては慎重な検討が必要です。

無配政策が続いていることも、配当重視の投資家には不向きな要素です。成長投資優先の方針は理解できますが、株主還元の観点では改善の余地があります。

ベトナムの製造業ハブとしての地位は確固たるものがあり、長期的な成長ポテンシャルは高いと考えています。しかし、短期的な業績変動の大きさや高いバリュエーションを考えると、投資タイミングは慎重に見極める必要がある銘柄だと思います。

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