ハノイのロンビエン区を車で走ると、必ずと言っていいほど目に飛び込んでくるのがビンホームズの巨大な住宅開発プロジェクトです。リバーサイド・アーバンエリア、オーシャンパーク、スマートシティなど、どれも規模が桁違いで、ベトナムの住宅事情を一変させる存在感があります。
実際に現地の人たちと話していると、「ビンホームズに住めれば一人前」といった価値観が根付いていることを感じます。高品質な住環境、充実した生活インフラ、そして何より「ビンホームズブランド」のステータス性が、ベトナムの新中間層にとって憧れの存在になっているんです。
ビンホームズは2008年に設立され、同年に株式会社化、2018年5月にホーチミン証券取引所に上場したビングループ子会社では住宅開発最大手の企業です。親会社であるビングループ(VIC)の一部門から独立し、現在では中高級住宅ブランド「ビンホームズ」を中心とした不動産開発事業を展開しています。
現在の株価は87,400VND、時価総額は約3,590億VNDという規模で、これは日本円換算で約1兆6,000億円程度になります。外国人保有率が10%と比較的低いのは、国内投資家からの強固な支持を示している証拠といえるでしょう。ビンホームズ(VHM)企業分析レポート – 2025年8月版
基本情報
会社名: CONG TY CO PHAN VINHOMES (VN)
英語名: VINHOMES JOINT STOCK COMPANY (EN)
証券コード: VHM
設立日: 2008年
株式会社化: 2008年
上場日: 2018年5月17日
所在地: Symphony Office Building, Chu Huy Man Str., Vinhomes Riverside Urban Area, Phuc Loi Ward, Long Bien Dist., Ha Noi
電話: (84-24) 3974 9350
FAX: (84-24) 3974 9351
URL: http://vinhomes.vn
Email: info@vinhomes.vn
株式情報(2025年7月15日現在)
資本金: 41,074,120,040,000 VND
流通株式数: 4,107,412,004 株
株価(終値): 87,400 VND
時価総額: 358,987,809,150,000 VND
外国人保有率: 10.00%(2025年7月15日現在)
財務データ(単位:100万VND、期末時点の株価のみ1,000VND)
損益計算書データ
年度 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025/Q1 | 2025予想 |
---|---|---|---|---|---|
流動資産 | 196,535,229 | 242,340,589 | 285,478,928 | 259,860,077 | N/A |
非流動資産 | 165,277,418 | 202,290,086 | 278,730,432 | 301,643,481 | N/A |
資産の部 | 361,812,647 | 444,630,675 | 564,209,360 | 561,503,558 | N/A |
負債の部 | 213,290,804 | 261,994,369 | 343,465,385 | 338,107,549 | N/A |
資本の部 | 148,521,843 | 182,636,306 | 220,743,975 | 223,396,009 | N/A |
売上高 | 62,392,603 | 103,556,722 | 102,323,186 | 15,697,917 | 92,133,000 |
営業利益 | 25,620,620 | 27,950,872 | 24,582,769 | 3,053,210 | N/A |
税引前利益 | 38,642,699 | 43,310,285 | 40,847,949 | 3,839,479 | 39,686,000 |
税引後利益 | 29,161,590 | 33,532,876 | 35,072,686 | 2,652,034 | 31,583,000 |
期末時点の株価 | 48.00 | 43.20 | 40.00 | 51.30 | 84.90 |
各種財務指標
指標 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025/Q1 | 2025予想 |
---|---|---|---|---|---|
ROA(総資産利益率)% | 9.85 | 8.32 | 6.95 | 0.47 | N/A |
ROE(株主資本利益率)% | 20.83 | 20.25 | 17.39 | 1.19 | N/A |
BPS(1株あたり純資産)VND | 34,109 | 41,943 | 53,743 | 54,389 | N/A |
PBR(株価純資産倍率)倍 | 1.41 | 1.03 | 0.74 | 0.94 | N/A |
EPS(1株あたり利益)VND | 6,621 | 7,664 | 7,348 | 655 | 7,440 |
PER(株価収益率)倍 | 7.25 | 5.64 | 5.44 | N/A | 11.41 |
NPM(当期利益率)% | 46.74 | 32.38 | 34.28 | 16.89 | 34.28 |
配当(VND) | 0 | 0 | 0 | N/A | N/A |
配当利回り(%) | 0.00 | 0.00 | 0.00 | N/A | N/A |
資本の変遷
時点 | 資本金(100万VND) |
---|---|
2018年10月 | 33,495,139 |
2021年9月 | 43,543,675 |
2024年11月 | 41,074,120 |
大株主構成(2025年6月19日現在)
株主分類 | 保有株式数(株) | 保有率(%) |
---|---|---|
政府 | なし | なし |
国内 | 3,696,670,804 | 90.00 |
海外 | 410,741,200 | 10.00 |
金庫株 | なし | なし |
5%以上を保有する株主(2025年2月28日現在)
株主名 | 保有株式数(株) | 保有率(%) |
---|---|---|
ビングループ[VIC] | 3,019,227,680 | 73.51 |
子会社・関連会社(2024年12月31日現在・保有率上位5社)
会社名 | 資本金(10億VND) | 保有率(%) |
---|---|---|
シンダイ開発投資 | 2,347 | 100.00 |
ダイタンロン不動産 | 300 | 100.00 |
メトロポリス・ハノイ | 144 | 100.00 |
カンソー観光都市 | 32,561 | 99.90 |
ザーラム都市開発投資 | 15,998 | 99.39 |
事業内容
企業概要
住宅開発最大手で、地場系コングロマリット(複合企業)ビングループ[VIC](Vingroup)が親会社。中高級住宅ブランド「ビンホームズ(Vinhomes)」を中心に不動産開発事業を展開。
事業実績・規模
- 2024年末までのマンション・一戸建て・タウンハウスの累積販売戸数は11万戸超、居住者数は49万3000人(2024年末)
- 74省・市で30か所の都市区を運営し、国内最大規模の不動産会社(2024年末)
オフィス事業
- 2018年から「Vinhomes Serviced Residences」ブランドのサービスアパート一戸建て「Vin Office」ブランドの賃貸オフィス(オフィス面積:37万9000m2)を管理・運営(2024年末)
土地バンク・開発計画
- 17万8800haの不動産開発用地を有し、業界最大規模を誇る(2024年末)
- 住宅店舗組み合わせたオンライン不動産販売サイトを展開している
株主還元・資本政策
- 2024年には4月23日に追加配当する計2億4700万株の自社株買いを実施。取引総額は10兆5000億VND
- 流通株式数の9.5%(最大3億7000万株)という目標株数には届かなかったが、この自社株買いは国内証券市場で史上最大規模となった
- 自社株買い完了後に資本金が43兆5440億VNDから41兆VNDに減少したが、依然として上場不動産会社中でトップ
売上高構成比(2024年)
- 不動産開発: 72%
- 建設: 17%
- 不動産管理: 3%
- 不動産賃貸等その他: 8%
主要開発プロジェクト
大型複合開発案件
キャピタランド・デベロップメント(CapitaLand Development=CLD)との提携
- 2025年、シンガポールの大手不動産会社キャピタランド・デベロップメント(CapitaLand Development=CLD)と提携覚書を締結
- 過去には「ビンホームズ・スマートシティ(Vinhomes Smart City)」「ビンホームズ・オーシャンパーク(Vinhomes Ocean Park)」内の複数プロジェクトで協業しており、今後も「ビンホームズ・オーシャンパーク3(Vinhomes Ocean Park 3)」内の「ザ・フルトン(The Fullton)」なども共同開発予定
- CLDは今後5年間でベトナムでの投資規模を倍増する計画を示している
工業団地事業
ビンホームズ工業団地投資(Vinhomes IZ)
- 投資主を務めるビンホームズ・ブンアン工業団地案件
- 場所:北中部地方ハティン省キーアイン町のブンアン経済区
- 用地面積:約965ha
- 投資総額:13兆2700億VND
- 完成時期:2030年末
- 投資資本回収期間:7年9か月
2025年引き渡し予定案件
- 都市区「ゴールデンアベニュー(Golden Avenue)」(東北部地方クアンニン省、敷地面積116ha)
- 低所得者向け住宅「ナムトラン・キャット(Nam Trang Cat)」(ハイフォン市、同26ha)
- 低所得者向け住宅「スターシティ(Star City)」(北中部地方タインホア省、同9ha)
2026年引き渡し予定案件
- 「ビンホームズ・ロイヤルアイランド(ハイフォン市、同865ha)」
- 「ムオイカムライン(Muoi Cam Ranh)」(南中部沿岸地方カインホア省、同87.6ha)
大型都市開発案件
ロンアン省フオックタンダイ村での大規模都市区
- 2025年にロンアン省ロックミンホーチミン市に隣接するロンアン省フオックタンダイ村で大規模都市区「フオックタンダイ新都市区」(総面積1090ha)の立ち退き補償および土地収用を完了予定
- 2026年~2030年にかけてインフラ整備および住宅開発を進める
- 投資総額は80兆0790億VNDで、人口規模は約9万人を見込む
事業戦略・投資計画
2025年事業計画
業績目標
- 売上高: 前年比+76%増の180兆VND
- 税引後利益: 同+20%増の42兆VND
- この目標を達成すれば、売上高と税引後利益の両方で過去最高を記録する見込み
資本政策
- 事業資金を確保するため3年連続の無配
- オーシャンパーク(Ocean Park)、「スマートシティ(Smart City)」などの大型案件では、すでに数万人の住民が生活を始めており、着実に入居が進んでいる
海外展開・多角化戦略
- 北部紅河デルタ地方ハイフォン市の「ビンホームズ・ロイヤルアイランド(Vinhomes Royal Island)」案件では、昨年末から引き渡しが始まり、2025年末までに3500戸の引き渡しが予定されている
- 4月に着工したホーチミン市カンゾー郡の埋立地で沿岸都市区案件「ビンホームズ・グリーンパラダイス(Vinhomes Green Paradise)」は、今後3年間で完工商売を集引する重要な原動力になると見込まれている
新規事業分野への参入
- 将来的な海外展開の可能性について、経営陣は潜在的なプロジェクトの調査を進めている
- また、運輸・物流、医療・美容、エンターテイメント事業など、さまざまな新規事業分野への参入も計画している
資金調達・投資計画
- 2025年の資金調達方針として、当初予定していた5億USDの社債発行を中止し、代わりに、事業進捗とキャッシュフローの安定を背景に、主要プロジェクトの推進に集中する方針
- 2024年もマレーシアのプロビデント・ファンドで建設中の超高級高層向け高級都市区「ビンホームズ・ロイヤルアイランド」案件を発売、発売から1か月足らずで、約2000人が予約
ロイヤルアイランド案件詳細
- 同案件は総面積877haで、庭付き一戸建てやテラスハウス、ショップハウスの計8000戸以上を供給
- さらに、船着場、36ホールのゴルフコース、ロイヤル乗馬アカデミー、川沿いの遊歩道、娯楽施設「ビンワンダーズ・ロイヤルパーク(VinWonders Royal Park)」なども併設
- 引き渡しは2025年予定
工業団地開発事業
- ナムチャンカット工業団地(ハイフォン市)やドイカンC工業団地(同)など複数の工業団地を同時展開中
- 今後10年間で3000haの工業用地開発を目指す
低所得者向け住宅開発
- 今後5年間で全国に「ビンホームズ・ハッピー・ホーム(Vinhomes Happy Home)」ブランドの社会住宅50万戸を開発する計画
- 販売価格は1戸当たり3億~9億5000万VNDを予定している
将来展開戦略
- 輸入者に対し不動産を直接販売することに加え、インフラ整備を行った後、不動産開発を行う他の開発会社向けに土地を売却する形で案件の進捗を加速化させる戦略を取っている
投資のポイント・リスク要因
強み
- ベトナム最大の住宅開発企業としての圧倒的地位
- 巨大な土地バンク(17万8800haの開発用地保有)
- 強固なブランド力(ビンホームズブランドのプレミアム性)
- 多角化された事業ポートフォリオ(住宅・オフィス・工業団地)
- 親会社ビングループとのシナジー(総合開発力)
- 高い収益性(ROE17%超、営業利益率24%)
リスク要因
- 不動産市況の変動(景気後退時の需要減少)
- 金利上昇リスク(住宅ローン金利上昇による需要減)
- 規制環境の変化(不動産関連法規制の強化)
- 競合他社の参入(外資系開発業者との競争)
- 土地取得コストの上昇(開発用地価格の高騰)
- 高いレバレッジ(負債比率の高さ)
投資判断のポイント
- 2025年の高成長目標(売上高+76%増)の達成度
- 大型プロジェクトの販売・引き渡し状況
- 工業団地事業の収益貢献度
- 海外展開計画の具体化
- 不動産市場全体の回復時期
- 配当再開のタイミング
まとめ
ハノイのロンビエン区を車で走ると、必ずと言っていいほど目に飛び込んでくるのがビンホームズの巨大な住宅開発プロジェクトです。リバーサイド・アーバンエリア、オーシャンパーク、スマートシティなど、どれも規模が桁違いで、ベトナムの住宅事情を一変させる存在感があります。
実際に現地の人たちと話していると、「ビンホームズに住めれば一人前」といった価値観が根付いていることを感じます。高品質な住環境、充実した生活インフラ、そして何より「ビンホームズブランド」のステータス性が、ベトナムの新中間層にとって憧れの存在になっているんです。
ビンホームズは2008年に設立され、同年に株式会社化、2018年5月にホーチミン証券取引所に上場したビングループ子会社では住宅開発最大手の企業です。親会社であるビングループ(VIC)の一部門から独立し、現在では中高級住宅ブランド「ビンホームズ」を中心とした不動産開発事業を展開しています。
現在の株価は87,400VND、時価総額は約3,590億VNDという規模で、これは日本円換算で約1兆6,000億円程度になります。外国人保有率が10%と比較的低いのは、国内投資家からの強固な支持を示している証拠といえるでしょう。このビンホームズの分析データを見ていて、率直に言うと非常に興味深い投資機会だと感じています。なぜかというと、ベトナムの中間層拡大というメガトレンドを最も直接的に享受できるポジションにいるからです。
現地で生活していて実感するのは、ベトナム人の住宅に対する価値観が急速に変化していることです。以前は「住めればいい」という考えが主流でしたが、今では「質の高い住環境」「ブランドバリュー」「ライフスタイル」を重視する層が急拡大しています。その需要を満たしているのがまさにビンホームズです。
財務面で特に注目すべきは収益性の高さです。営業利益率が24%、ROEが17%超という数字は、他の不動産会社と比較しても際立って優秀です。これはビンホームズブランドの付加価値が市場で確実に評価されている証拠でしょう。
17万8800haという土地バンクの規模も圧倒的です。これは東京23区の面積の約3倍に相当しますから、今後20-30年間の開発余地を十分に確保していることになります。
2025年の業績目標である売上高76%増という数字は確かに野心的ですが、複数の大型プロジェクトが引き渡し時期を迎えることを考えると、決して非現実的ではないと思います。特にロイヤルアイランド案件では既に2000人が予約しているという状況ですから、需要の強さが窺えます。
ただし、いくつか気になる点もあります。まず3年連続の無配政策です。成長投資優先の方針は理解できますが、株主還元の観点では物足りなさがあります。
また、PBRが0.74倍という水準は確かに割安感がありますが、これは不動産市況全体の停滞を反映している面もあるでしょう。市況回復のタイミングが株価上昇の重要な要素になりそうです。
親会社のビングループとのシナジー効果も見逃せません。ビンパールのリゾート施設、ビンワンダーズのテーマパーク、ビンコムの商業施設などを組み合わせた総合開発力は、他社では真似できない強みです。
工業団地事業への参入も戦略的に重要です。住宅開発だけでなく、製造業向けの土地開発も手掛けることで、事業リスクの分散と収益源の多様化を図れます。
低所得者向け住宅「ハッピーホーム」ブランドの展開も注目です。これまでの高級住宅路線に加えて、ボリュームゾーンの取り込みを図る戦略で、市場の裾野拡大が期待できます。
総合的に見ると、ベトナムの都市化・中間層拡大という長期トレンドに最も適したポジションにある企業だと考えています。短期的な業績変動はあるものの、10年、20年という長期投資の観点では非常に魅力的な選択肢だと思います。
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