ベトコムバンク(VCB)企業分析レポート – 2025年8月版【ベトナム株】

ハノイの街を歩いていると、緑色の看板が目立つベトコムバンクの支店を頻繁に見かけます。ATMも至る所に設置されていて、ベトナム人の日常生活に深く根ざした存在だということがよく分かります。

銀行を利用する際も、ベトコムバンクの窓口はいつも混雑していて、その人気の高さを実感します。現地の人たちに聞くと「安心感がある」「サービスが充実している」という声をよく聞くんです。

ベトコムバンクは1963年4月1日に設立され、2008年6月に株式会社化、2009年6月にホーチミン証券取引所に上場したベトナムにおいて大規模で最も歴史のある銀行の1行です。みずほ銀行が出資する元国営4大銀行の一角を占め、資本金は国内の商業銀行の中で最大規模を誇ります。

現在の株価は61,400VND、時価総額は約5,130億VNDという規模で、これは日本円換算で約2兆3,000億円程度になります。外国人保有率が22%という水準にあり、国際的な投資家からの関心も高い銘柄です。ベトコムバンク(VCB)企業分析レポート – 2025年8月版

目次

基本情報

会社名: NGAN HANG THUONG MAI CO PHAN NGOAI THUONG VIET NAM (VN)
英語名: JOINT STOCK COMMERCIAL BANK FOR FOREIGN TRADE OF VIETNAM (EN)
証券コード: VCB
設立日: 1963年4月1日
株式会社化: 2008年6月2日
上場日: 2009年6月30日

所在地: 198 Tran Quang Khai Str., Ly Thai To Ward, Hoan Kiem Dist., Ha Noi
電話: (84-24) 3934 3137
FAX: (84-24) 3936 5402
URL: http://www.vietcombank.com.vn
Email: ir@vietcombank.com.vn

株式情報(2025年7月15日現在)

資本金: 83,556,750,940,000 VND
流通株式数: 8,355,675,094 株
株価(終値): 61,400 VND
時価総額: 513,038,450,772,000 VND
外国人保有率: 22.00%(2025年7月15日現在)

財務データ(単位:10億VND、期末時点の株価のみ1,000VND)

損益計算書データ

年度2022202320242025/Q12025予想
資産の部1,813,8151,839,6132,085,8742,109,261N/A
預金1,243,4681,395,6981,514,6651,509,113N/A
貸付金1,120,2871,241,6751,418,0161,433,896N/A
資本の部135,646165,013196,209204,942N/A
業務利益68,08367,72368,57917,26572,925
(うち:利息関連収支)53,24653,62155,40613,687N/A
経常利益(引当金繰入前)46,83245,90945,55111,612N/A
税引前利益37,36841,24442,23610,86044,475
税引後利益29,91933,05433,8538,70235,580
期末時点の株価80.0080.3091.2064.0067.30

各種財務指標

指標2022202320242025/Q12025予想
ROA(総資産利益率)%1.851.811.720.41N/A
ROE(株主資本利益率)%24.4521.5918.744.34N/A
LDR(預貸率)%90.0988.9693.6295.02N/A
総資産に占める貸付金の割合(%)61.7667.5067.9867.98N/A
総資産に占める預金の割合(%)68.5675.8772.6271.55N/A
EPS(1株あたり利益)VND5,8215,4495,5711,0414,258
PER(株価収益率)倍13.7414.7416.37N/A15.81
NPM(税引後利益率)%43.9548.8149.3650.4048.79
CAR(自己資本比率)%9.9511.4012.16N/AN/A
NPL(不良債権比率)%0.701.000.981.05N/A
配当(VND)000N/AN/A
配当利回り(%)0.000.000.00N/AN/A

資本の変遷

時点資本金(10億VND)
2022年1月47,325
2023年8月55,891
2025年3月83,557

大株主構成(2025年6月19日現在)

株主分類保有株式数(株)保有率(%)
政府6,250,338,57974.80
国内267,087,9943.20
海外1,838,248,52122.00
金庫株なしなし

5%以上を保有する株主(2025年5月4日現在)

株主名保有株式数(株)保有率(%)
ベトナム国家銀行(SBV)6,250,338,57974.80
みずほ銀行1,253,366,53515.00

子会社・関連会社(2024年12月31日現在・保有率上位5社)

会社名資本金(10億VND)保有率(%)
ベトコムバンク・ラオス銀行1,820100.00
ベトコムバンク証券(VCBS)1,735100.00
ベトコムバンク・リース(VCBL)500100.00
ベトナム・ファイナンス(香港、VFC)235100.00
ベトコムバンク海外送金(VCBR)30100.00

事業内容

企業概要

ベトナムにおいて大規模で最も歴史のある銀行の1行。資本金は国内の商業銀行の中で最大規模を誇る(2025年3月)。貿易決済、預金、貸付等の伝統的な銀行業務分野だけでなく、外貨売買、国際クレジットカード、電子銀行取引などの分野においてもトップクラスの銀行として地位を築いている。

国際的地位・実績

  • 国際決済に関わる各取引・業務において長年の歴史で培った信用があり、世界各国の大手銀行と取引関係を持つ
  • 2017年に日本の三井住友銀行、資本業務提携契約を締結し、世界有数のメガバンクやフィデアホールディングス、日本の国際協力銀行(JBIC)など複数の日本金融機関と業務提携している

戦略的提携

FWDグループとの提携

  • 2019年11月、香港系FWDグループとの間で、15年間の独占銀行窓口販売契約を締結
  • 自行の店舗網を通じて顧客ベースを活かし、FWDの各種保険商品の販売を行っている

店舗・サービス網

  • 全国に広がる店舗網(本店1か所、支店130か所、出張所517か所)、現金処理センター2か所、人材育成センター1か所を有し、海外駐在員事務所2か所(シンガポールと米国)のほか、ラオス子銀行を展開(2023年末)

子会社・関連銀行統合

ベトナム建設銀行(CBバンク)の統合

  • 2024年10月、ベトナム国家銀行(中央銀行)は全株式を1株0VNDで強制的に買収して国有化したベトナム建設銀行(CBバンク=CBBank)をVCBに強制移管した
  • この移管により、CBバンクはVCBの全額出資銀行になった
  • VCBは2025年1月、CBバンクの銀行名を「ベトコムバンク・ネオ(Vietcombank Neo Limited=VCBNeo)」に改称した
  • 2024年3月時点におけるVCBNeo(当時の銀行名:CBバンク)の資本金は3兆VNDで、全国に約100店舗を展開していた

インフラ・技術基盤

  • 現金自動預け払い機(ATM)3090台、カード処理端末(POS)12万1035台を展開(2024年末)
  • 世界87か国・地域の1194銀行と代理店契約を締結(2024年末)

ブランド価値・評価

  • 米系経済誌フォーブス・ベトナム(Forbes Vietnam)の「ベトナムで最も価値のあるブランドトップ25」の2024年版では、VCBが6億9140万USDのブランド価値でトップとなった
  • FPTリテールと提携し、全国629店舗のFPTショップで身分証提示による現金の入出金サービスを提供開始

事業戦略・投資計画

デジタル化戦略

  • デジタルバンキング事業を強化し、顧客の利便性を向上させる
  • 国内トップバンクの地位を強化し、2025年までにアジアの銀行トップ100、世界の銀行トップ300にランクインすることを目指す

資本政策

  • 流通株式数の6.5%にあたる新株を発行する第三者割当増資を行う計画。実施期間は2025~2026年、発行後の資本金は83兆5570億VNDから88兆9880億VNDへと引き上げられる

CBバンク統合後の戦略

  • VCBが移管を受けた旧ベトナム建設銀行(現:ベトコムバンク・ネオ=VCBNeo)については、既にコアバンキングシステムの刷新を完了
  • 今後は、VCBの基準に基づくITインフラの整備を進めるとともに、デジタル技術を軸とした独立型運営モデルの再構築を目指す

2025年事業計画

業績目標

  • 税引前利益が前年比+3.5%増の43兆7140億VNDに設定されている
  • 年末時点の総資産成長率は前年末比+10.0%、資金調達成長率は+8.0%、貸付成長率は+16.28%、不良債権比率は1.5%未満となる見込み

配当政策

  • 2024年の利益剰余金は23兆1490億VNDで、この金額を配当に充てる方針
  • 配当の形式(現金または株式)は現時点で未定で、実施には関連当局の承認が必要となる

投資のポイント・リスク要因

強み

  1. ベトナム最大級の商業銀行としての圧倒的地位
  2. 政府系銀行としての安定性(政府保有率74.8%)
  3. 充実した店舗・ATM網(全国647店舗、ATM3090台)
  4. 国際的な取引基盤(世界87か国1194銀行と提携)
  5. みずほ銀行との資本・業務提携(15%出資)
  6. 高い収益性(ROE18.74%、利益率49%超)
  7. 低い不良債権比率(0.98%)

リスク要因

  1. 金利変動リスク(金利環境の変化による利鞘への影響)
  2. 信用リスク(貸出先の信用状況悪化)
  3. 規制環境の変化(銀行業に対する規制強化)
  4. 競合激化(外資系銀行や他国内銀行との競争)
  5. 経済環境の変化(ベトナム経済の減速リスク)
  6. CBバンク統合リスク(統合に伴うシステム・運営面の課題)

投資判断のポイント

  • 2025年の成長目標(貸付成長率16.28%)の達成度
  • CBバンク統合によるシナジー効果
  • デジタル化戦略の進展状況
  • 不良債権比率の推移
  • 配当再開のタイミングと水準
  • アジア銀行トップ100入りの達成度

まとめ

このベトコムバンクの分析を通じて感じるのは、ベトナムの金融セクターの中でも特に安定した投資対象だということです。現地で銀行を利用していると、その信頼性と利便性を日々実感しています。

財務指標を見ると、ROEが18.74%という高い水準を維持しながら、不良債権比率は0.98%と極めて低く抑えられています。これは優れたリスク管理能力を示しており、政府系銀行としての安定性と民間銀行としての効率性を両立していることが分かります。

みずほ銀行が15%出資している点も重要です。日本の大手銀行のノウハウと国際的なネットワークを活用できる立場にあり、これが競争優位性の源泉になっています。

CBバンク(現ベトコムバンク・ネオ)の統合は短期的には統合コストが発生するものの、中長期的にはスケールメリットと市場シェア拡大の効果が期待できます。全国約100店舗の追加により、地方部での競争力も強化されるでしょう。

2025年の業績目標である貸付成長率16.28%は積極的な数字ですが、ベトナム経済の成長率を考えると現実的な水準だと思います。特に中小企業向け融資や住宅ローンの需要拡大が見込まれます。

ただし、配当が実施されていない点は気になります。銀行株の魅力の一つは安定した配当収入ですから、この点では物足りなさがあります。2024年の利益剰余金23兆1490億VNDを配当に充てる方針を示していますが、実施時期と水準が注目されます。

デジタル化戦略も重要な要素です。ベトナムでは急速にキャッシュレス化が進んでいますが、ベトコムバンクは先行者利益を確保できる立場にあります。FPTリテールとの提携による現金サービス展開なども、利便性向上に寄与するでしょう。

アジア銀行トップ100、世界銀行トップ300入りという目標は野心的ですが、現在の成長軌道を維持できれば十分達成可能だと考えています。

投資判断としては、ベトナム経済の成長とともに安定した収益拡大が期待できる、堅実な選択肢だと評価しています。配当再開のタイミングが株価上昇の重要な催化剤になるでしょう。

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