テクコムバンク(TCB)企業分析レポート – 2025年8月版【ベトナム株】

ハノイのクアングチュン通りにあるテクコムバンクタワーの前を通るたび、この銀行の存在感の大きさを実感します。赤いロゴが印象的で、街中でもよく見かける銀行の一つです。現地の人たちからは「テクノロジーに強い銀行」として認知されており、特にデジタルサービスの評判が良いようです。

テクコムバンクは1993年9月27日に設立され、2003年に株式会社化、2018年6月にホーチミン証券取引所に上場した新興不動産大手が関わる大手民間銀行です。マサングループ(MSN)が大株主として14.84%を保有しており、同グループとの連携が特徴的な銀行といえます。

現在の株価は34,800VND、時価総額は約2,459億VNDという規模で、これは日本円換算で約1兆1,000億円程度になります。外国人保有率が22%という水準で、国際的な投資家からも注目されています。テクコムバンク(TCB)企業分析レポート – 2025年8月版

目次

基本情報

会社名: NGAN HANG THUONG MAI CO PHAN KY THUONG VIET NAM (VN)
英語名: VIETNAM TECHNOLOGICAL AND COMMERCIAL JOINT STOCK BANK (EN)
証券コード: TCB
設立日: 1993年9月27日
株式会社化: 2003年9月27日
上場日: 2018年6月4日

所在地: Techcombank Tower, 6 Quang Trung Str., Tran Hung Dao Ward, Hoan Kiem Dist., Ha Noi
電話: (84-24) 3944 6368
FAX: (84-24) 3944 6362
URL: http://www.techcombank.com.vn
Email: call_center@techcombank.com.vn / hotrodoanhnghiep@techcombank.com.vn

株式情報(2025年7月15日現在)

資本金: 70,648,517,390,000 VND
流通株式数: 7,064,851,739 株
株価(終値): 34,800 VND
時価総額: 245,856,840,517,000 VND
外国人保有率: 22.00%(2025年7月15日現在)

財務データ(単位:10億VND、期末時点の株価のみ1,000VND)

損益計算書データ

年度2022202320242025/Q12025予想
資産の部699,033849,482978,799989,216N/A
預金358,404545,661533,392531,583N/A
貸付金415,752512,514623,634655,007N/A
資本の部113,425131,616147,940153,953N/A
業務利益40,90240,06146,99011,61151,949
(うち:利息関連収支)30,29027,69135,5088,305N/A
経常利益(引当金繰入前)27,50426,80931,6218,326N/A
税引前利益25,56822,88827,5387,23631,537
税引後利益20,43618,19121,7606,01425,114
期末時点の株価25.8531.8024.6527.5036.40

各種財務指標

指標2022202320242025/Q12025予想
ROA(総資産利益率)%3.222.352.380.61N/A
ROE(株主資本利益率)%19.8014.8515.573.98N/A
LDR(預貸率)%116.0093.93116.92123.22N/A
総資産に占める貸付金の割合(%)59.4860.3363.7166.21N/A
総資産に占める預金の割合(%)51.2764.2354.4953.74N/A
EPS(1株あたり利益)VND5,7255,1043,049N/A3,529
PER(株価収益率)倍4.526.238.08N/A10.31
NPM(税引後利益率)%49.9645.4146.3151.7948.34
CAR(自己資本比率)%15.2014.4015.30N/AN/A
NPL(不良債権比率)%0.731.171.141.19N/A
配当(VND)01,5000N/AN/A
配当利回り(%)0.004.720.00N/AN/A

資本の変遷

時点資本金(10億VND)
2023年11月35,225
2024年6月70,450
2024年11月70,649

大株主構成(2025年6月19日現在)

株主分類保有株式数(株)保有率(%)
政府なしなし
国内5,510,584,35678.00
海外1,554,267,38322.00
金庫株なしなし

5%以上を保有する株主(2025年6月4日現在)

株主名保有株式数(株)保有率(%)
マサングループ[MSN]1,048,630,99814.84

子会社・関連会社(2024年12月31日現在・保有率上位3社)

会社名資本金(10億VND)保有率(%)
テクコムバンクAMCN/A100.00
テクコム証券(TCBS)N/A94.07
テクコム・キャピタル(TCC)N/A88.99

事業内容

企業概要・沿革

前身は1993年に設立され、当初の資本金は200億VND。設立から着実に成長を遂げ、2018年6月4日にホーチミン証券取引所(HSX)へ上場した。

資本政策・株主構成

  • 2024年6月、既存株主を引受先として割当比率1対1で新株35億株を発行する無償増資を実施した。発行後の資本金は70兆4502億VNDとなっている
  • この増資により、TCBの資本金はベトナム投資開発銀行[BID](BIDV)、ベトコムバンク[VCB](Vietcombank)、ヴィエティンバンク[CTG](Vietinbank)、ベトナム農業農村開発銀行(アグリバンク=Agribank)の大手国営銀行4行を上回り、資本金規模で業界2位となっている(1位:VPBank[VPB](VPBank)、資本金約74兆VND、2024年11月時点)

マサングループとの関係

  • 2024年7月時点で1.0%以上を保有する株主のリストによると、大口株主(保有率:5.00%以上)は、香産飼料、食品・飲料、鉱山採掘、金融事業を手掛ける持株会社マサングループ[MSN](Masan)1社のみ。MSNのTCB保有率は14.88%で、MSNとその関連者の保有率合計は15.15%となっている
  • MSNの共同創業者であるグエン・ダン・クアン氏は、MSN会長とTCB準副副会長を務めている
  • TCBのホー・フン・アイン会長はMSNの共同創業者・元社長・元副会長として知られている。アイン会長のTCB保有率は1.12%、そのほかのクアン・アイン関連者を合わせた保有率(アイン会長を含む法人株主と関連株主)の保有率合計は32.78%に達し、MSNの保有率を大きく上回る最大の株主グループとなっている

マスタライズ・グループとの関係

TCBのアイン会長の一家が立ち上げたマスタライズ・グループ(Masterise Group)は急成長中の新興不動産デベロッパー大手として知られている。同社は近年、ハノイ市やホーチミン市を中心に複数の大規模高級複合案件を買い取り、同時展開している。マスタライズ・グループ系列企業は、不動産業作向けの融資を調達する関係で、TCB傘下の融資会社であるほか、TCB子会社である資産運用会社テクコム証券(TCBS)からコンサルティングを受けて社債発行を行っている。

事業基盤

  • 本店1か所、支店・出張所299か所、駐在員事務所2か所(2024年末)
  • 1540万個人・企業の顧客ベースを保有(2024年末)
  • MSN、ビングループ[VIC](Vingroup)、ベトナム航空[HVN](Vietnam Airlines)、サングループ(Sungroup)などの法人顧客との間で良好な関係を構築しており、同社の顧客の取引状況、財務の健全性、同社との取引関係における当局の経営効率について高い評価を獲得している

証券事業

  • TCBSのブローカー業務シェアは、ホーチミン証券取引所(HSX):7.49%(3位)、ハノイ証券取引所(HNX):8.24%(2位)(2025年1~3月期)
  • TCBSは、25のプロ投資家を対象に1億1880万株超の新株を発行する第三者割当増資を実施した。発行後の資本金は20兆8020億VNDに増強された。この増資により、TCBSはSSI証券[SSI](SSI Securities)を上回り、資本金規模で業界トップとなった(2025年6月11日時点)

デジタル化・利便性向上

マサングループ[MSN](Masan Group)傘下のウィンコマース(Wincommerce=WCM)との提携により、TCBの顧客は店舗やATMを利用せずとも、バクザン省、バクニン省、カントーの3省・市のコンビニエンスストア「ウィンマート・プラス(WinMart+)」45店舗で入出金や送金、口座開設などを行うことができるようになった。

事業戦略・投資計画

戦略的提携・事業拡大

マニュライフ生命保険との提携

  • 2024年10月14日をもってマニュライフ生命保険ベトナム(Manulife Vietnam)との独占的パートナーシップを終了し、同社の保険商品の販売を停止した
  • TCBは2013年、マニュライフ生命保険ベトナムとの間で15年間の独占的バンカシュアランス契約を締結したが、双方の戦略変更や保険経営法に新たな要件が追加されたことにより協力関係終了を決めた

テクコム損害保険の設立

  • TCBはテクコム損害保険(Techcom Nonlife Insurance=TCGIns)の設立に際して11%を出資した。2024年11月4日に営業開始、資本金は5000億VND

海外戦略

  • 2024年11月、大口株主となる海外戦略的投資家を探しており、この投資家へ15%の売却を検討している

事業分野戦略

  • 貸付対象分野を電力や通信、エネルギー、消費財などに拡大するほか、個人顧客や中小企業向けの貸出を強化する方針
  • 大手顧客・不動産向け融資に注力、小規模デベロッパーを相手とせず、主に大手デベロッパーと協力
  • 貸付残高全体に占める不動産・建設業向け貸付金残高の割合が2023年末時点で4割弱の高水準となっている

2025年事業計画

業績目標

  • 今年の業績目標は、税引前利益が前年比+14.4%増の31.5兆VND
  • 今年末時点の貸付成長率は前年末比+16.4%、不良債権比率は1.5%未満となる見込み
  • 2024年の現金配当を額面比10%で実施

資本政策

  • 幹部社員へのインセンティブ(ESOP)として流通株式数の最大0.3%にあたる新株2140万株を発行、発行価格は1株1万VND
  • TCBSの新規株式公開(IPO)を実現する予定

デジタル化・技術革新

  • AI能力を強化し、AIを全面的に活用する初の銀行を目指す

保険事業展開

  • 保険分野では、「テクコム生命保険(TCLife)」を設立、資本金は1.3兆VND、大口株主には、TCB(保有率80%)とビングループ[VIC](Vingroup)傘下の企業が名を連ねる
  • 損害保険会社「テクコム損害保険(TCGIns)」の出資比率を11%から68%へ引き上げ、子会社化する

投資のポイント・リスク要因

強み

  1. 急成長する民間銀行としての地位(資本金業界2位)
  2. マサングループとの戦略的連携(14.84%出資)
  3. 強力なデジタル化戦略(AI活用に注力)
  4. 多様な事業展開(銀行・証券・保険の総合金融)
  5. 高い収益性(ROE15.57%、利益率46%超)
  6. 低い不良債権比率(1.14%)
  7. 大手企業との良好な関係(VIC、HVN、Sungroup等)

リスク要因

  1. 不動産セクターへの高い依存度(貸付残高の4割弱)
  2. 預貸率の高さ(116.92%)による流動性リスク
  3. 競合激化(他大手銀行との競争)
  4. 金利変動リスク(金利環境の変化による利鞘への影響)
  5. 規制環境の変化(不動産融資規制の強化)
  6. マスタライズ・グループとの関係(関連企業融資の集中リスク)

投資判断のポイント

  • 2025年の成長目標(税引前利益+14.4%増)の達成度
  • 不動産融資の健全性維持
  • デジタル化戦略の成果
  • 海外戦略投資家の獲得状況
  • TCBS IPOの実現時期
  • 保険事業の収益貢献度

まとめ

このテクコムバンクの分析を見ていて、率直に言うと複雑な印象を持ちます。成長性は確かに魅力的ですが、いくつか気になる点があるのも事実です。

まず注目すべきは、資本金規模で業界2位になったという成長力です。2024年の無償増資により資本金が70兆VNDに達し、国営大手銀行を上回る規模になりました。これは民間銀行としては驚くべき成長です。

マサングループとの関係も興味深い点です。14.84%の出資に加えて、マサン系列のウィンマートでの金融サービス提供など、具体的なシナジー効果が見えています。ただし、これが両刃の剣にもなり得ます。

最も懸念すべきは不動産セクターへの融資集中度です。貸付残高の4割弱を不動産・建設業が占めているということは、不動産市況の変動に大きく左右されるリスクがあります。現地で不動産市場の過熱感を感じているだけに、この点は慎重に見る必要があります。

預貸率116.92%という数字も高すぎます。これは預金よりも貸出の方が多いということで、流動性リスクの観点から見ると危険な水準です。他の大手銀行と比較しても明らかに高い数値です。

TCBSの証券事業では市場シェア上位を占めており、IPO予定も控えています。これは新たな収益源として期待できる分野です。

AI活用戦略も注目ポイントです。「AIを全面的に活用する初の銀行を目指す」という目標は野心的で、実現すれば大きな差別化要因になるでしょう。

2025年の業績目標である税引前利益+14.4%増は、現在の成長軌道を考えると達成可能な水準だと思います。ただし、不動産市況の変化や金利環境の変動に大きく影響される可能性があります。

投資判断としては、高成長を求める投資家には魅力的ですが、安定性を重視する投資家にとってはリスクが高すぎる銘柄だと考えています。特に不動産融資の集中度と預貸率の高さは、市況変化時に大きな損失につながる可能性があります。

現地の不動産市場動向を注意深く監視し、これらのリスク要因が改善されるタイミングでの投資検討が適切でしょう。

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