ヴェティンバンク(CTG)企業分析レポート – 2025年8月版【ベトナム株】

ハノイの旧市街を歩いていると、青と白のヴェティンバンクの看板をよく見かけます。特にチャンフンダオ通りにある本店ビルは、伝統的なベトナム建築とモダンなデザインが融合した印象的な建物で、国営銀行としての格式を感じさせます。

現地の公務員や国営企業で働く人たちからは「安心して使える銀行」として信頼を得ており、給与振込口座として選ばれることが多い印象です。ATMも市内各所に設置されており、利用の便利さも十分です。

ヴェティンバンクは1988年3月26日に設立され、2009年7月に株式会社化、同年7月にホーチミン証券取引所に上場した三菱UFJ銀行が出資する元国営4大銀行の一つです。資本調達、貸付、国内及び国際決済、その他の金融サービスを主力事業としています。

現在の株価は44,150VND、時価総額は約2,371億VNDという規模で、これは日本円換算で約1兆600億円程度になります。外国人保有率は27%で、三菱UFJ銀行が19.73%を保有する戦略的パートナーシップが特徴的です。ヴェティンバンク(CTG)企業分析レポート – 2025年8月版

目次

基本情報

会社名: NGAN HANG THUONG MAI CO PHAN CONG THUONG VIET NAM (VN)
英語名: VIETNAM JOINT STOCK COMMERCIAL BANK FOR INDUSTRY AND TRADE (EN)
証券コード: CTG
設立日: 1988年3月26日
株式会社化: 2009年7月3日
上場日: 2009年7月16日

所在地: 108 Tran Hung Dao Str., Cua Nam Ward, Hoan Kiem Dist., Ha Noi
電話: (84-24) 3941 8868
FAX: (84-24) 3942 1032
URL: http://www.vietinbank.vn
Email: contact@vietinbank.vn

株式情報(2025年7月15日現在)

資本金: 53,699,917,480,000 VND
流通株式数: 5,369,991,748 株
株価(終値): 44,150 VND
時価総額: 237,085,135,674,000 VND
外国人保有率: 27.00%(2025年7月15日現在)

財務データ(単位:10億VND、期末時点の株価のみ1,000VND)

損益計算書データ

年度2022202320242025/Q12025予想
資産の部1,808,4302,032,6142,385,3882,469,863N/A
預金1,249,1761,410,8991,606,3171,621,227N/A
貸付金1,245,0581,445,5721,685,2911,762,190N/A
資本の部108,168125,872148,505153,982N/A
業務利益64,11770,54881,90920,45390,086
(うち:利息関連収支)47,79252,95762,40315,475N/A
経常利益(引当金繰入前)45,10950,10559,36314,934N/A
税引前利益20,94624,99031,7646,82337,609
税引後利益16,83520,04525,4835,499N/A
期末時点の株価27.2527.1037.8041.4545.60

各種財務指標

指標2022202320242025/Q12025予想
ROA(総資産利益率)%1.011.041.150.22N/A
ROE(株主資本利益率)%16.6817.1318.573.64N/A
LDR(預貸率)%99.67102.46104.92108.69N/A
総資産に占める貸付金の割合(%)68.8571.1270.6571.35N/A
総資産に占める預金の割合(%)69.0869.4167.3465.64N/A
EPS(1株あたり利益)VND3,4913,7064,720N/AN/A
PER(株価収益率)倍7.817.318.01N/A0.00
NPM(税引後利益率)%26.2628.4131.1126.89N/A
CAR(自己資本比率)%>9.00>9.00>9.00N/AN/A
NPL(不良債権比率)%1.271.151.251.59N/A
配当(VND)000N/AN/A
配当利回り(%)0.000.000.00N/AN/A

資本の変遷

時点資本金(10億VND)
2014年12月37,234
2021年7月48,058
2023年12月53,700

大株主構成(2025年6月19日現在)

株主分類保有株式数(株)保有率(%)
政府3,461,676,28364.46
国内512,117,6119.54
海外1,396,197,85426.00
金庫株なしなし

5%以上を保有する株主(2025年6月2日現在)

株主名保有株式数(株)保有率(%)
ベトナム国家銀行(SBV)3,461,676,28364.46
三菱UFJ銀行1,059,477,26119.73

子会社・関連会社(2024年12月31日現在・保有率上位5社)

会社名資本金(10億VND)保有率(%)
ヴィエティンバンク・リース1,000100.00
ヴィエティンバンクファンド運用300100.00
ヴィエティンバンク・ラオス銀行6200万USD100.00
ヴィエティンバンク証券[CTS]1,48775.64
ヴィエティンバンク保険(VBI)76773.37

事業内容

企業概要・沿革

ベトナム国家銀行(中央銀行)から分離され1988年に設立された4大国営銀行の1行。

三菱UFJ銀行との戦略的提携

提携の経緯と現状

  • 2012年12月末、三菱UFJ銀行(BTMU)が資本参加し、戦略的パートナーシップ契約を締結。以降、同行からの支援を受けているが、2021年11月頃から三菱UFJ銀行がCTGからの出資金全額回収を検討していると噂されている
  • この背景には、三菱UFJ銀行が全面的なリストラを実施しており、コスト削減やデジタルバンキングの強化を目指していることがある

事業基盤・ネットワーク

  • 国内に本店1か所、支店155か所、出張所953か所のほか、融資センター1か所、カードセンター1か所、人材育成センター1か所、現金管理センター5か所を有する
  • また、海外に子銀行1行(ラオス)、海外支店2か所(ドイツ)、海外駐在員事務所1か所(ミャンマー)を展開(2024年末)
  • 世界90か国・領土以上の約1000銀行以上と代理店契約を締結(2024年末)

保険事業

マニュライフ・ベトナムとの提携

  • 2020年12月、カナダ系生命保険会社であるマニュライフ・ベトナム(Manulife Vietnam)との間で、16年間の独占的バンカシュアランス(銀行による保険商品販売)契約を締結し、マニュライフ・ベトナムの生命保険を独占的に販売している

事業戦略・投資計画

2025年事業計画

業績目標

  • 2025年末時点の総資産成長率目標を前年末比+5~10%、不良債権比率目標を1.8%未満とする。利益目標は未定
  • 同時点の貸付成長率は+15%、株主資本利益率(ROE)は16~18%、スト・インカム・レンジ(経費率=CIR)は30%、CASA比率(預金全体に占める当座・普通預金残高の比率)は25%の見通し

資本政策・株式配当

大規模株式配当計画

  • 株式配当として2009~2016年、2021年、2022年の利益剰余金の計23兆9710億VNDを原資に、新株24億株を発行する。発行後の資本金は53兆7000億VNDから77兆6710億VNDに引き上げられる
  • 資本金が長期的な成長ニーズに対してまだ小さいため、現金配当を行わない。利益を留保して資本を増強することは、資本の安全性を確保し、国際資本規制「バーゼルII」から「バーゼルIII」への移行を見据えた国際基準への対応において最適な手段だとしている。今後3年間、現金配当ではなく株式配当を継続する方針

子会社戦略

ヴィエティンバンクリース株式譲渡

  • 100%出資子会社であるヴィエティンバンクリース(VietinBank Leasing)の株式49%を三菱UFJリース株式会社(東京都千代田区)に譲渡する計画
  • 三菱UFJリースの出資後、ヴィエティンバンクリースの資本金は1兆VND、出資者構成はCTGが50%、三菱UFJリースが49%、その他が1%となる見通し

リスク管理強化

貸倒引当金の増強

  • 貸倒引当金繰入を増強し、不良債権に対する貸倒引当金比率を高める方針

投資のポイント・リスク要因

強み

  1. 元国営4大銀行の一角としての安定した地位
  2. 三菱UFJ銀行との戦略的提携(19.73%出資)
  3. 全国規模のネットワーク(1,100拠点超)
  4. 海外展開実績(ラオス子銀行、ドイツ支店等)
  5. 高い収益性(ROE18.57%)
  6. マニュライフとの独占保険販売契約(16年間)

リスク要因

  1. 三菱UFJ銀行の出資金回収検討(提携関係の不透明性)
  2. 預貸率の高さ(108.69%)による流動性リスク
  3. 不良債権比率の上昇傾向(1.25%→1.59%)
  4. 無配政策の継続(株主還元の欠如)
  5. 競合激化(他大手銀行との競争)
  6. 金利変動リスク

三菱UFJ銀行関係のリスク分析

2021年以降の三菱UFJ銀行による出資金回収検討の噂は、投資判断において重要な懸念材料となっている。仮に三菱UFJ銀行が撤退すれば:

  • 技術・ノウハウ支援の停止
  • 国際的な信用力の低下
  • 株価への悪影響
  • 代替パートナーの必要性

投資判断のポイント

  • 三菱UFJ銀行との提携関係の行方
  • 2025年の業績目標設定と達成度
  • 大規模株式配当による株式希薄化の影響
  • 不良債権比率の推移
  • 預貸率の適正化進展
  • 現金配当再開のタイミング

まとめ

このヴェティンバンクの分析で最も注目すべき点は、三菱UFJ銀行との提携関係に関する不透明性です。2021年11月頃から出資金全額回収の検討が噂されているという状況は、投資家にとって重大な懸念材料です。

財務面では、預貸率が108.69%という数値が気になります。これは預金よりも貸出の方が多いことを意味し、流動性管理の観点から見ると健全とは言えません。また、不良債権比率が1.25%から1.59%に上昇していることも、信用リスクの増加を示唆しています。

三菱UFJ銀行の19.73%出資は、技術支援や国際的な信用力向上において重要な役割を果たしてきました。仮にこの提携関係が解消されれば、CTGにとって大きな打撃となる可能性があります。

77兆6710億VNDという大規模な株式配当による資本増強計画は、財務基盤の強化には寄与しますが、既存株主の持分は大幅に希薄化されます。この規模の株式配当は、実質的に既存株主にとって不利益となる可能性があります。

現地での実感として、ヴェティンバンクは確かに安定した銀行として認識されていますが、革新性や成長性の面では他の銀行に劣る印象があります。特にデジタル化の進展においては、民間銀行に後れを取っている感があります。

投資判断としては、三菱UFJ銀行の動向が明確になるまでは慎重な姿勢を取るべきでしょう。政府系銀行としての安定性はありますが、成長性や株主還元の面では魅力に欠ける銘柄と評価せざるを得ません。

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