ハノイのランハー通りを歩いていると、赤と緑のVPBankの看板が目を引きます。モダンで洗練されたデザインの店舗は、まさに新世代の民間銀行という印象です。若いビジネスマンや起業家がよく利用している光景を見かけ、従来の国営銀行とは明らかに異なる顧客層をターゲットにしていることがわかります。
VPバンクは1993年に設立され、2010年にベトナム・プロスペリティ銀行(VPバンク)に改称した三井住友銀行が出資の大手民間銀行です。資本調達、貸付、国内・国際決済、証券業、金・外貨の販売等の金融サービスを主力事業としています。
現在の株価は20,750VND、時価総額は約1,646億VNDという規模で、これは日本円換算で約7,400億円程度になります。外国人保有率が24%で、三井住友銀行が15.01%を保有する戦略的パートナーシップが特徴です。VPバンク(VPB)企業分析レポート – 2025年8月版
基本情報
会社名: NGAN HANG THUONG MAI CO PHAN VIET NAM THINH VUONG (VN)
英語名: VIETNAM PROSPERITY JOINT STOCK COMMERCIAL BANK (EN)
証券コード: VPB
設立日: 1993年
株式会社化: 2010年
上場日: 2017年8月17日
所在地: 89 Lang Ha Str., Dong Da Ward, Ha Noi
電話: (84-24) 3928 8869 / 7305 6600
FAX: (84-24) 3928 8867
URL: http://www.vpbank.com.vn
Email: ir@vpbank.com.vn / chamsockhachhang@vpbank.com.vn
株式情報(2025年7月15日現在)
資本金: 79,339,236,010,000 VND
流通株式数: 7,933,923,601 株
株価(終値): 20,750 VND
時価総額: 164,628,914,721,000 VND
外国人保有率: 24.00%(2025年7月15日現在)
財務データ(単位:10億VND、期末時点の株価のみ1,000VND)
損益計算書データ
年度 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025/Q1 | 2025予想 |
---|---|---|---|---|---|
資産の部 | 631,013 | 817,567 | 923,848 | 994,037 | N/A |
預金 | 303,151 | 442,368 | 485,667 | 552,374 | N/A |
貸付金 | 424,662 | 551,472 | 676,546 | 713,555 | N/A |
資本の部 | 103,502 | 139,796 | 147,275 | 151,213 | N/A |
業務利益 | 57,797 | 49,739 | 62,255 | 15,566 | 75,236 |
(うち:利息関連収支) | 41,021 | 38,175 | 49,080 | 13,356 | N/A |
経常利益(引当金繰入前) | 43,681 | 35,798 | 47,915 | 11,692 | N/A |
税引前利益 | 21,220 | 10,804 | 20,013 | 5,015 | 25,300 |
税引後利益 | 16,909 | 8,494 | 15,987 | 3,935 | 20,147 |
期末時点の株価 | 17.90 | 19.20 | 19.20 | 19.00 | 25.25 |
各種財務指標
指標 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025/Q1 | 2025予想 |
---|---|---|---|---|---|
ROA(総資産利益率)% | 2.87 | 1.17 | 1.84 | 0.40 | N/A |
ROE(株主資本利益率)% | 17.82 | 6.98 | 11.14 | 2.64 | N/A |
LDR(預貸率)% | 140.08 | 124.66 | 139.30 | 129.18 | N/A |
総資産に占める貸付金の割合(%) | 67.30 | 67.45 | 73.23 | 71.78 | N/A |
総資産に占める預金の割合(%) | 48.04 | 54.11 | 52.57 | 55.57 | N/A |
EPS(1株あたり利益)VND | 2,718 | 1,433 | 1,989 | 491 | 2,415 |
PER(株価収益率)倍 | 6.59 | 13.40 | 9.65 | N/A | 10.46 |
NPM(税引後利益率)% | 29.26 | 17.08 | 25.68 | 25.28 | 26.78 |
CAR(自己資本比率)% | 14.90 | 17.10 | 15.50 | N/A | N/A |
NPL(不良債権比率)% | 5.92 | 5.15 | 4.30 | 4.85 | N/A |
配当(VND) | 1,000 | 1,000 | 500 | N/A | N/A |
配当利回り(%) | 5.59 | 5.21 | 2.60 | N/A | N/A |
資本の変遷
時点 | 資本金(10億VND) |
---|---|
2021年10月 | 45,057 |
2022年10月 | 67,434 |
2023年10月 | 79,339 |
大株主構成(2025年6月19日現在)
株主分類 | 保有株式数(株) | 保有率(%) |
---|---|---|
政府 | なし | なし |
国内 | 6,029,781,937 | 76.00 |
海外 | 1,904,141,664 | 24.00 |
金庫株 | なし | なし |
5%以上を保有する株主(2025年6月4日現在)
株主名 | 保有株式数(株) | 保有率(%) |
---|---|---|
三井住友銀行(SMBC) | 1,190,500,000 | 15.01 |
子会社・関連会社(2024年12月31日現在・保有率上位5社)
会社名 | 資本金(10億VND) | 保有率(%) |
---|---|---|
VPバンクアセットマネジメント | 115 | 100.00 |
VPBank AMC | N/A | N/A |
VPバンク証券(VPBankS) | 15,000 | 99.95 |
オペス保険(OPES) | 1,265 | 99.13 |
VPバンクSMBCファイナンス(FE Credit) | 10,928 | 50.00 |
事業内容
企業概要・沿革
民間銀行大手。前身は1993年に設立されたベトナム非国営企業銀行で、当初の資本金は200億VND。2010年にベトナム・プロスペリティ銀行(VPバンク)に改称した。
三井住友銀行との戦略的提携
提携の経緯と現状
- 2020年10月、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ、東京都千代田区)傘下の三井住友銀行(SMBC)が資本参加し戦略的パートナーになった
- 2024年8月時点でSMBCはVPB株15.01%を保有する筆頭株主で、唯一の大口株主(保有率:5.00%以上)となっている
- ゴー・チー・ズン会長の保有率は4.14%程度だが、ズン会長とその関連者(三親等以内の個人株主と機関株主)の保有率合計は29.51%に達しており、SMBCの保有率を大きく上回る最大の株主グループとなっている
事業基盤・競争優位性
- リテールや中小企業金融分野に特に強みを持ち、近年はデジタル化への取り組みにも注力し、民間銀行トップクラスの成長力・収益力を誇っている
- 本店1か所、支店80か所、出張所207か所(2025年3月末)
デジタル決済サービス
MWGとの提携
- 2020年12月、携帯電話・電子機器の販売で最大規模の投資[MWG](Mobile World Investment Corporation)との間で、決済代行業務協力に関する契約を締結
- VPBの顧客は同行の店舗やATMを訪れる必要なく、MWGがベトナム全土で展開する携帯端末販売店チェーン「thegioididong.com(テーゾイジードンドットコム)」と家電販売店チェーン「Dien may XANH(ディエンマイサインエングリーン家電)」で身分証明書の提示により入出金や送金、決済口座「VPBank NEO」の開設、クレジットカード開設などを行うことができる
国営銀行統合
GPバンク統合
- ベトナム国家銀行(中央銀行)は2025年1月、全株式を1株0VNDで強制的に買収して国有化したGPバンク(GPBank)をVPBに強制移管した。この移管により、GPバンクはVPBの全額出資銀行になった
保険事業
AIA損害保険との提携
- AIA損害保険AIAと同行はバンカシュアランス(銀行窓口での保険販売)に関する事業提携契約を締結しており、自行の顧客ベースを活かしAIAの保険商品の代理販売を行っている
消費者金融事業
FEクレジット(消費者金融大手)
- VPBの傘下で消費者ローンを手掛ける金融子会社FEクレジット(FE Credit)は消費者金融大手
- 三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)傘下のSMBCコンシューマー・ファイナンス(SMBC Consumer Finance)が2021年10月、FEクレジット株49%の譲受を完了し、正式にFEクレジット株49%を保有する大株主となっている
- 3000万顧客(FEクレジットの顧客を含む)が成る大きな顧客ベースを確保(2024年末)
証券・保険事業
- VPバンク証券(VPBankS)と、デジタルプラットフォームを武器に損害保険サービスを展開するオペス保険(OPES)を子会社として傘下に置いている(2024年末)
デジタル化・技術革新
eKYC導入
- 2020年7月、オンライン上で本人確認を完結する「eKYC(electronic Know Your Customer)」を導入。eKYCを導入する銀行はVPBが国内初
事業戦略・投資計画
2025年事業計画
業績目標
- 業績目標は、税引前利益が前年比+26%増の25兆2700億VND
- 同年末時点の総資産は前年末比+23%増の113兆8000億VND、貸付金残高は同+25%増の88兆7240億VND、資金調達残高は同+34%増の74兆3110億VND、不良債権比率は4.30%となる見通し
中期戦略(2026-2029年)
高成長目標
- 2026~2029年の年平均利益成長率は+30~35%となり、銀行業界の平均水準の2倍へと拡大
- 年平均貸付成長率と年平均資金調達成長率は+27~28%となる見込み
保険事業拡大
生命保険子会社設立
- 資本金2兆VNDの生命保険子会社を設立する計画。また、ファンド運用会社の株式を取得し、子会社にする計画もある
デジタル化戦略
セルフ窓口端末によるサービス充実化
- セルフ窓口端末によるサービス充実化に注力するなどして、顧客にとって使い勝手の良いユーザーフレンドリーな国内トップブランドの銀行を目指す
デジタルサービス拡充
- 2024年8月、ホーチミン市1区に同行初のフラッグシップ(旗艦)支店をオープン。同支店は、窓口だけでなく、顧客がVPBの商品・サービスを試せるデジタルエリアを併設
- デジタルエリアを中核としたサービスエリアには高度な技術を活用した機器が充実
- 焼き内の現金自動預払い機(ATM)や現金自動預け入れ機(CDM)などを利用した、入出金、口座開設、カード発行・停止、ローン申し込み、ビジネス口座開設の申し込みなど、200種類近くの手続きを行うことができる
現金配当継続方針
2022~2026年の5年連続で現金配当を維持する方針
投資のポイント・リスク要因
強み
- 民間銀行トップクラスの成長力・収益力
- 三井住友銀行との戦略的提携(15.01%出資)
- デジタル化の先駆者(eKYC国内初導入)
- 強固な消費者金融基盤(FEクレジット、3000万顧客)
- 多角化された金融サービス(銀行・証券・保険)
- 5年連続現金配当方針(株主還元重視)
リスク要因
- 高い不良債権比率(4.30%、業界平均を上回る)
- 預貸率の高さ(139.30%)による流動性リスク
- 消費者金融への高依存(景気変動の影響大)
- 競合激化(デジタル化競争の激化)
- 金利変動リスク(利鞘への影響)
- 規制環境の変化(消費者保護規制の強化)
不良債権比率の懸念
VPBの不良債権比率4.30%は、国営銀行(VCB: 0.98%、BID: 1.44%、CTG: 1.25%)と比較して明らかに高い水準にある。これは以下の要因による:
- 消費者金融事業の高リスク性
- 中小企業向け融資の信用リスク
- 積極的な成長戦略に伴うリスクテイク
投資判断のポイント
- 2025年の高成長目標(利益+26%増)の達成度
- 不良債権比率の改善状況
- デジタル化投資の成果
- 三井住友銀行との提携効果
- 生命保険子会社設立の進捗
- 消費者金融市場の動向
まとめ
このVPバンクの分析を通じて、民間銀行としての攻めの姿勢と、それに伴うリスクの両面が明確に見えてきます。
最も懸念すべき点は不良債権比率4.30%という数値です。これは国営銀行と比較して明らかに高く、VCBの0.98%、BIDの1.44%、CTGの1.25%と比べると3-4倍の水準にあります。消費者金融分野への積極的な参入と中小企業向け融資の拡大が要因ですが、景気後退時にはこのリスクが顕在化する可能性があります。
預貸率139.30%という数値も流動性管理の観点から問題があります。預金よりも貸出の方が4割近く多いということは、資金調達に外部資金に依存している状況を示しています。
一方で、VPBの強みも無視できません。三井住友銀行との提携により、デジタル化や消費者金融のノウハウを活用できています。特にFEクレジットを通じた3000万顧客という顧客基盤は、他行では真似できない規模です。
eKYCの国内初導入など、デジタル化分野での先駆的な取り組みも評価できます。従来の銀行業務にとらわれない柔軟なサービス展開は、若年層の支持を集めています。
2025年の税引前利益+26%増という目標は野心的ですが、過去の成長実績を見ると達成可能な範囲内です。ただし、この高成長は高リスクと表裏一体であることを理解しておく必要があります。
GPバンクの強制統合も短期的には統合コストが発生するものの、顧客基盤の拡大と市場シェア向上につながるでしょう。
配当政策については、2022年から5年連続で現金配当を継続する方針を示しており、株主還元に対する姿勢は評価できます。
投資判断としては、高リスク・高リターン型の銘柄として位置づけるべきでしょう。ベトナムの消費者金融市場の拡大と中間層の成長を背景に、大きな成長ポテンシャルを持つ一方、景気変動や規制強化には脆弱性を抱えています。
リスク許容度の高い投資家には魅力的な選択肢ですが、安定性を重視する投資家には慎重な検討が必要な銘柄といえます。
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