軍隊銀行(MBB)株投資ガイド:ベトナム民間銀行最大手の実力を現地12年の経験で徹底解説

先週、新しいクレジットカードを申し込むために銀行を回っていたところ、ハノイ市内のレ・ヴァン・ルオン通りにある軍隊銀行の本店に立ち寄りました。平日の午後にも関わらず、個人客や法人客で賑わうロビーを見て、この銀行の存在感の大きさを改めて実感しました。

窓口で手続きをしながら行員の方と話していると「最近はデジタル化が進んで、スマホアプリだけで大抵のことができるようになった」という話が出てきました。実際、私の周りのベトナム人の多くが、給与振込から住宅ローン、投資信託まで、軍隊銀行を総合的に利用しています。

現地で生活していると、軍隊銀行(MBB)がベトナムの金融システムにおいてどれほど重要な位置を占めているかを日々実感します。今日は私のポートフォリオでも重要な位置を占める銘柄の一つ、軍隊銀行について現地在住12年の視点から詳しく分析していきたいと思います。

目次

軍隊銀行(MBB)とは?ベトナム民間銀行業界の絶対王者

まず基本情報から整理していきましょう。軍隊銀行(証券コード:MBB)は1994年に設立された人民軍傘下の企業に金融サービスを提供する金融機関として始まり、現在はベトナム民間銀行最大手の地位を確立しています。

基本データ(2025年7月15日現在)

  • 資本金:61兆227億VND
  • 流通株式数:61億272万株
  • 株価:26,600VND
  • 時価総額:約162兆3205億VND
  • 外国人保有率:23.00%

主な事業内容

  • 貸出・資金調達、法人融資・消費者金融による短中長期資金の調達
  • 短中長期の融資、国内外機関より開発資本・投資委託資本引き受け
  • コマーシャルペーパー・社債・有価証券の割引など

圧倒的な事業規模

  • 顧客ベース:3020万人(2024年末)
  • 全国60/63省・市に店舗網(本店1か所、支店・出張所320か所、ラオス支店含む)
  • ベトナム国内に子銀行、ロンドンに駐在員事務所を展開(2024年末)

財務分析:安定成長を続ける優良金融機関

MBBの財務データを見ると、ベトナム経済成長の恩恵を受けた着実な成長が見て取れます。

主要財務指標の推移

  • 資産の部:2024年112兆8801億VND(前年比+19.5%)
  • 貸金:2024年71兆4154億VND(前年比+25.9%)
  • 貸付金:2024年76兆5048億VND(前年比+29.2%)
  • 資本の部:2024年11兆7060億VND(前年比+21.3%)

この成長率は非常に印象的です。特に貸付金の29.2%増という数字は、ベトナム経済の拡大と個人消費の活発化を反映しています。

収益性の改善

  • 業務利益:2024年5兆5413億VND(前年比+17.1%)
  • 税引前利益:2024年2兆8829億VND(前年比+9.6%)
  • 税引後利益:2024年2兆2951億VND(前年比+9.0%)

利益面では二桁成長を維持しており、安定した収益基盤を築いています。

財務健全性指標

  • ROE:2024年21.47%
  • ROA:2024年2.21%
  • LDR(貸出預金比率):107.13%

ROE21.47%は非常に高い水準で、株主資本の効率的な活用ができています。LDR107%は積極的な貸出姿勢を示しており、成長市場での事業拡大に意欲的な姿勢が伺えます。

PBR・PER分析:割安性を数字で検証

投資判断において重要な株価の割安性について、PBRとPERの観点から分析してみましょう。

PBR(株価純資産倍率)分析

  • 現在のPBR:6.48倍(2025年Q1時点)
  • 過去3年推移:2022年4.43倍 → 2023年4.70倍 → 2024年6.74倍

PBRは上昇傾向にありますが、6.48倍という水準は成長性の高い新興国銀行としては妥当な範囲内です。特にROE21%という高い資本効率を考慮すれば、この水準でのPBRは正当化されると考えられます。

PER(株価収益率)分析

  • 2025年予想PER:41.04倍

PER41.04倍は一見すると高く感じるかもしれませんが、これはベトナム銀行セクターの急成長と将来性を織り込んだ結果です。特に2024年から2029年まで年平均成長率12%という野心的な目標を掲げていることを考慮すると、成長投資としては妥当な評価水準と判断できます。

配当の魅力

  • 2024年配当:0VND(無配)
  • 2023年配当:500VND
  • 2022年配当:500VND

2024年は成長投資優先のため無配でしたが、過去の配当実績と今後の収益拡大を考えると、配当復活の可能性は高いと考えています。

割安性の判断 現在の株価26,600VNDは、PBR・PERともに成長銀行としては適正水準にあると判断します。特に2025年以降の業績拡大期待を考慮すると、長期投資に適した価格帯だと考えています。

事業戦略:デジタル化とASEAN展開で次のステージへ

MBBの2025年以降の戦略は、国内でのデジタル化推進とASEAN地域での事業拡大を柱としています。

2025年業績目標

  • 税引前利益成長率:前年比+10.0%
  • 同年末時点での総資産成長率:前年比+21.2%
  • 資金調達成長率:同+23.3%
  • 貸付成長率:同+23.7%
  • 不良債権比率:1.7%未満

主要戦略施策

デジタル化の推進 デジタル取引率98.6%、アジアトップ銀行と同水準(2024年)という実績を基に、さらなるデジタル化を推進しています。新たに法人向け金融サービスや住宅ローンなどに加えて、銀行サービスを受けることができないアンバンクト(Unbanked)層向けにオンライン小口融資やクレジットスコアリングサービス提供など、デジタル金融サービスを拡充しています。

ASEAN地域展開

  • ラオスでの現地法人設立、韓国・日本・中国・シンガポール・台湾などでの拠点開設
  • 時価総額を100億USDに拡大
  • 2029年までに顧客4000万人を目指す

新規事業展開 新生銀行(東京都中央区)との合弁会社MB新生ファイナンス(MB Shinsei Finance=Mクレジット=MCredit)の新規株式公開(IPO)を実施予定です。これにより、消費者金融事業での成長加速が期待されます。

政府・軍関連企業としての特殊な位置づけ

MBBを理解する上で重要なのが、その設立経緯と政府・軍との関係です。

株主構成の特徴

  • 国防省系企業(ベトナム軍隊通信グループ)とその系列企業が筆頭株主
  • ベトナム・ベトコンデータ総公社、サイゴン・ニューポート総公社で34.52%を保有

この株主構成により、MBBは政府系プロジェクトや軍関連事業での優位性を持っています。これは参入障壁としても機能し、競争上の優位性となっています。

ベトナム最大規模の売場チェーンとの提携 F88とベトテルとの間で、決済代行業務での協力関係を構築しています。これにより、小売決済分野での事業拡大が期待できます。

現地で実感するMBBの革新性とサービス品質

数字だけでは表現できないMBBの真の価値は、現地での実体験にあります。

デジタル化の先進性 私自身もMBBのモバイルアプリを利用していますが、その使い勝手の良さは他行を圧倒しています。送金、投資信託購入、外貨両替、保険加入まで、ほぼ全てのサービスがスマホで完結できます。

顧客サービスの質 支店での対応も非常にプロフェッショナルです。英語対応も充実しており、外国人でも安心して利用できます。特にプライベートバンキングサービスは、日本の都市銀行と比較しても遜色ない水準です。

商品・サービスの多様性 住宅ローン、自動車ローン、教育ローン、投資信託、保険商品まで、ワンストップで金融サービスを提供している点は、ベトナムの中間層にとって大きな利便性となっています。

投資リスクの冷静な分析

もちろん、銀行株への投資にはリスクも伴います。現地にいるからこそ見えるリスクも含めて正直にお話しします。

金利変動リスク ベトナム国家銀行の金融政策変更により、利ざやが圧迫されるリスクがあります。特にインフレ抑制のための利上げ局面では注意が必要です。

不良債権リスク 積極的な貸出拡大により、不良債権比率の上昇リスクがあります。特に消費者金融分野での貸倒れ増加には注意が必要です。

規制強化リスク ベトナム政府による金融機関への規制強化や、外資規制の変更が事業に影響を与える可能性があります。

競合激化リスク 外資系銀行の参入や国内銀行との競争激化により、利鞘縮小や顧客獲得コスト増加のリスクがあります。

投資判断:ベトナム金融セクターの成長を取り込む中核銘柄

これらの分析を踏まえ、私はMBB株を「ベトナム金融セクターの成長を取り込む中核銘柄」として長期保有を継続しています。

投資の理由

  1. ベトナム民間銀行最大手としての市場地位
  2. 3020万人という圧倒的な顧客基盤
  3. 98.6%という高いデジタル化率
  4. ROE21%という高い資本効率性
  5. ASEAN展開による成長拡大期待

懸念点

  • PER41倍という割高感
  • 不良債権比率上昇の可能性
  • 金利変動への感応度の高さ
  • 政府・軍関連企業としての政策リスク

目標株価・投資戦略 現在の株価26,600VNDは、2025年以降の業績拡大を織り込んだ水準ですが、長期的な成長ポテンシャルを考慮すると妥当な投資機会だと判断しています。2027年頃には35,000-40,000VND程度への上昇を期待しています。

ポートフォリオでの位置づけ 私のポートフォリオでは「ベトナム内需・金融セクターの中核銘柄」として重要な位置を占めています。特にベトナム経済成長の恩恵をダイレクトに受けられる銘柄として、長期保有を前提とした投資を行っています。

まとめ:ベトナム金融業界の未来を担う銀行

軍隊銀行(MBB)は、単なる銀行ではありません。ベトナムの金融デジタル化を牽引し、中間層の資産形成を支え、ASEAN地域での金融サービス拡大を目指す戦略的な金融機関です。

現地で生活していると、この銀行がベトナム社会にとってどれほど重要な存在かを日々実感します。個人の資産形成から企業の事業拡大まで、ベトナム経済の成長エンジンとしての役割を担っています。

PBR・PER分析からは現在の株価水準が成長期待を織り込んだものであることが確認できますが、長期的な成長ポテンシャルを考慮すると、投資妙味は十分にあると考えています。

確かに短期的には金利変動や競合激化などのリスクもありますが、ベトナム経済の長期的な成長トレンドと金融セクターの拡大を考えれば、最大の受益者になると確信しています。

投資は自己責任ですが、ベトナムの金融セクター成長に賭けたい投資家にとって、MBB株は中核的な投資対象として検討に値する銘柄だと考えています。

皆さんはどう思われますか?ベトナムの金融市場の成長性や銀行業界の将来について、ぜひコメントで意見交換させていただければと思います。


この記事は2025年8月時点の情報に基づいており、投資判断は自己責任でお願いします。より詳細な金融セクター分析や投資戦略については、メンバーシップで定期的にお届けしています。

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