PVパワー(POW)株投資ガイド:ベトナム電力業界の新興勢力を現地12年の経験で徹底解説

先月、ドンナイ省にある新しい工業団地を視察した際、その電力供給の安定性に感心しました。停電の多い東南アジアの他国と比べて、ベトナムの電力インフラの充実ぶりは目を見張るものがあります。その背景には、ペトロベトナムグループ(PVN)傘下の発電会社大手であるPVパワーのような企業の貢献があります。

現地で事業を営んでいると、PVパワー(POW)という会社がベトナムの電力供給にどれほど重要な役割を果たしているかを実感します。全国で7か所のガス火力発電所、石炭火力発電所、水力発電所を保有・運営し、総出力4205MW(2024年末)を誇る電力業界の重要プレーヤーです。

今日は私のポートフォリオでも注目している銘柄の一つ、PVパワーについて現地在住12年の視点から詳しく分析していきます。

目次

PVパワー(POW)とは?ペトロベトナム傘下の電力業界新興勢力

まず基本情報から整理していきましょう。PVパワー(証券コード:POW)は2007年にペトロベトナムグループ(PVN)の全額出資子会社として設立され、2019年にホーチミン証券取引所に上場した発電事業会社です。

基本データ(2025年7月15日現在)

  • 資本金:23兆4187億VND
  • 流通株式数:23億4187万株
  • 株価:13,700VND
  • 時価総額:約32兆836億VND
  • 外国人保有率:3.00%

主な事業内容

  • 発電所・電力網の建設運営、発電用エネルギーの輸出・輸入
  • 発電事業に関連する商品販売・技術サービス、スラグ・廃品販売など

圧倒的な発電規模

  • 全国で合わせて7か所のガス火力発電所、石炭火力発電所、水力発電所を保有・運営
  • 総出力:4205MW(2024年末)
  • ガス火力発電所と石炭火力発電所の合計出力がPOW傘下発電所総出力の大半を占める
  • 2024年の発電量は全国の総発電量の5.2%にあたる161億kWh

財務分析:電力需要拡大の恩恵を受けた安定成長

POWの財務データを見ると、ベトナムの電力需要拡大による安定した成長が見て取れます。

売上高推移

  • 2022年:282兆2412億VND
  • 2023年:283兆2936億VND(+0.4%)
  • 2024年:303兆563億VND(+7.0%)
  • 2025年Q1:81兆5031億VND(通年予想398兆700億VND)

2024年は7%の増収を達成しており、電力需要の回復と電力価格の安定化が寄与していると考えられます。

収益性の変動

  • 営業利益:2024年が11兆1988億VND(営業利益率3.7%)
  • 税引前利益:2024年が13兆8324億VND(前年比▲4.1%)
  • 税引後利益:2024年が12兆1134億VND(前年比▲5.6%)

収益面では前年比減益となっていますが、これは燃料価格の変動や設備メンテナンス費用の増加が影響していると考えられます。

財務健全性

  • ROE:2024年3.52%
  • ROA:2024年1.61%
  • BPS:14,809VND

これらの指標は公益事業としては妥当な水準ですが、過去と比較すると低下傾向にあり、収益性改善が課題となっています。

PBR・PER分析:割安性を数字で検証

投資判断において重要な株価の割安性について、PBRとPERの観点から分析してみましょう。

PBR(株価純資産倍率)分析

  • 現在のPBR:0.86倍(2025年Q1時点)
  • 過去3年推移:2022年0.75倍 → 2023年0.77倍 → 2024年0.81倍

PBR0.86倍という水準は、資産価値を下回る水準での取引を意味しており、割安感が強いと言えます。特に発電設備などの有形資産を豊富に保有する電力会社としては、非常に魅力的な評価水準です。

PER(株価収益率)分析

  • 2025年予想PER:30.95倍

PER30.95倍は一見すると高く感じますが、これは2024年の利益減少を受けた一時的な現象と考えられます。電力事業の安定性を考慮すると、長期的な投資価値は十分にあると判断できます。

配当政策

  • 継続的に無配を維持

POWは設立以来無配を継続していますが、これは積極的な設備投資による成長を優先しているためです。今後の業績改善により配当開始の可能性もあります。

割安性の判断 現在の株価13,700VNDは、PBR0.86倍という割安な評価を考慮すると、長期投資には魅力的な水準だと判断します。特に今後の大型発電プロジェクト完成による収益拡大を考慮すると、投資妙味があります。

事業戦略:再生可能エネルギーへの大胆な転換

POWの2025年以降の戦略で最も注目すべきは、LNG火力発電と再生可能エネルギーへの大胆な投資です。

2025年業績計画

  • 発電量:188.6億kWh(前年比+17%)
  • 売上高:381兆1850億VND(前年比+26%)
  • 税引後利益:4390億VND(前年比▲64%)

利益面では一時的な減益を予想していますが、これは大型投資に伴う減価償却費増加などが要因と考えられます。

大型LNG発電プロジェクト 2025年2月上旬、第3ニョンチャック液化天然ガス(LNG)火力発電所を国家電力網に接続し、試運転を開始しました。同発電所は東南部地方ドンナイ省のオンクオ工業団地内にあり、7月から商業運転を開始する予定です。

さらに注目すべきは、POWが投資主を務める第4ニョンチャックLNG火力発電所も同工業団地内に建設中で、10月に商業運転を開始する予定となっています。第3ニョンチャックと第4ニョンチャックの発電所2か所の出力合計は1500MWで、年間発電量は約90億kWh、投資総額は14億USDに上ります。

充電スタンド事業への参入 2035年に充電スタンド1000か所を目指すとしており、韓国系ENテクノロジーズとの間で、ベトナム国内における電気自動車(EV)向け充電スタンドの開発に関する事業提携契約を締結しています。

また、地場系コングロマリット(複合企業)ビングループ[VIC]との間で充電スタンド網の開発と屋根置き太陽光発電の利用促進に関する事業提携契約も締結しており、脱炭素化トレンドを見据えた戦略的な取り組みを進めています。

大型再生可能エネルギープロジェクト

POWの将来性を語る上で欠かせないのが、大規模な再生可能エネルギープロジェクトです。

南中部沿岸地方ニントアン省のクリーンエネルギー・蓄電複合施設建設案件

  • 揚水水力発電所(6基のタービン発電機の総出力1440MW)
  • 太陽光発電所(出力3500MW)
  • バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)(同350MW)を整備
  • 年間発電量:58億7000万kWh
  • 投資総額:39.8億USD(約6300億円)
  • 2026年に着工、2030年末に稼働予定

2025年までの目標 総出力を5760-7260MW(全国シェア8%)、年間発電量を220-240億kWhに増やす計画です。石炭・天然ガス供給源の減少が発電量増加のネックとなっていることを背景に、風力発電所や太陽光発電所などの再生可能エネルギー案件へ投資する方針を示しています。

現地で実感するPOWの存在感と重要性

数字だけでは表現できないPOWの真の価値は、現地での電力供給安定性への貢献にあります。

産業発展への貢献 私が訪問する工業団地でも、POWの発電所からの安定した電力供給が製造業の発展を支えています。特にドンナイ省やビンズオン省の工業地帯では、POWの発電インフラが欠かせない存在となっています。

脱炭素化への取り組み 最近特に印象的なのが、環境配慮への積極的な姿勢です。従来の石炭・ガス火力から再生可能エネルギーへの転換を進めており、国際的な脱炭素化トレンドに対応しています。

技術革新への投資 EV充電インフラ事業への参入は、単なる電力会社から総合エネルギー企業への変貌を示しています。これは将来の成長機会として非常に期待できます。

投資リスクの冷静な分析

電力株への投資にはリスクも伴います。現地にいるからこそ見えるリスクも含めて正直にお話しします。

燃料価格変動リスク LNG価格や石炭価格の変動は直接的に収益に影響します。特に国際商品価格の影響を大きく受ける構造にあります。

電力政策変更リスク ベトナム政府のエネルギー政策変更により、電力買取価格や発電事業の規制が変更される可能性があります。

巨額投資による財務負担 大型発電プロジェクトには巨額の投資が必要で、工期遅延や建設コスト増加のリスクがあります。

競合激化リスク 民間発電事業者の参入により、電力卸売市場での競争が激化する可能性があります。

技術変化リスク エネルギー技術の急速な変化により、既存設備の陳腐化リスクがあります。

投資判断:脱炭素化トレンドの恩恵を受ける電力株

これらの分析を踏まえ、私はPOW株を「ベトナムの電力需要拡大と脱炭素化トレンドの恩恵を受ける成長電力株」として注目しています。

投資の理由

  1. ベトナム電力業界での重要なポジション(全国シェア5.2%)
  2. 大型LNG発電プロジェクトによる発電容量拡大
  3. 再生可能エネルギー事業への大胆な転換
  4. PBR0.86倍という割安な評価水準
  5. EV充電インフラ事業への先行投資

懸念点

  • 燃料価格変動による収益ボラティリティ
  • 巨額投資による短期的な利益圧迫
  • 無配継続による株主還元の不透明さ
  • 外国人保有率3%という流動性の低さ

目標株価・投資戦略 現在の株価13,700VNDは、PBR0.86倍という割安な評価を考慮すると魅力的な投資機会だと判断します。2026年以降の大型プロジェクト稼働により、18,000-20,000VND程度への上昇を期待できると考えています。

ポートフォリオでの位置づけ 私のポートフォリオでは「電力・インフラ系の成長銘柄」として位置づけており、脱炭素化トレンドと電力需要拡大の両方を取り込む戦略的投資として保有しています。

まとめ:ベトナム電力業界の変革をリードする企業

PVパワー(POW)は、単なる発電会社ではありません。ベトナムの電力供給を支え、脱炭素社会への移行をリードし、新しいエネルギーインフラの構築を推進する戦略的企業です。

現地で事業を営んでいると、この会社がベトナムの産業発展にとってどれほど重要な存在かを日々実感します。安定した電力供給、環境配慮への取り組み、新技術への投資など、現代社会が求める要素すべてを兼ね備えています。

PBR・PER分析からも、現在の株価水準は長期投資に適した魅力的な範囲にあることが確認できました。特に2025年以降の大型プロジェクト稼働と再生可能エネルギー事業の拡大は、大きな成長機会となると期待しています。

確かに短期的には燃料価格変動や巨額投資による利益圧迫もありますが、長期的にはベトナムの電力需要拡大と脱炭素化トレンドの最大の受益者になると確信しています。

投資は自己責任ですが、ベトナムの電力・エネルギーセクターの成長に賭けたい投資家にとって、POW株は検討に値する銘柄だと考えています。

皆さんはどう思われますか?ベトナムの電力市場や再生可能エネルギー事業の成長性について、ぜひコメントで意見交換させていただければと思います。


この記事は2025年8月時点の情報に基づいており、投資判断は自己責任でお願いします。より詳細な電力・エネルギーセクター分析や投資戦略については、メンバーシップで定期的にお届けしています。

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