ビンコムリテール(VRE)株投資ガイド:ベトナム高級商業不動産の支配者を現地12年の経験で徹底解説

先週末、家族でハノイの新しいショッピングモール「ビンコム・メガモール・ロイヤルアイランド」を訪れました。その規模と豪華さには圧倒されましたが、それ以上に印象的だったのは平日にも関わらず多くの買い物客で賑わっている様子でした。高級ブランド店から地元の飲食店まで、幅広いテナントが軒を連ね、ベトナムの消費市場の成熟度を肌で感じることができました。

このショッピングモールを運営しているのが、今日お話しするビンコムリテール(VRE)です。ビングループ傘下の高級小売スペース賃貸最大手として、ベトナムの商業不動産市場を牽引している企業です。

現地で生活していると、VREという会社がベトナムの小売業界、そして都市開発にどれほど重要な役割を果たしているかを日々実感します。今日は私のポートフォリオでも注目している銘柄の一つ、ビンコムリテールについて現地在住12年の視点から詳しく分析していきます。

目次

ビンコムリテール(VRE)とは?ベトナム高級商業不動産の絶対王者

まず基本情報から整理していきましょう。ビンコムリテール(証券コード:VRE)は2012年に設立され、2017年に上場したビングループ傘下の商業不動産デベロッパーです。

基本データ(2025年7月15日現在)

  • 資本金:23兆2881億VND
  • 流通株式数:22億7231万株
  • 株価:28,150VND
  • 時価総額:約63兆9657億VND
  • 外国人保有率:18.00%

主な事業内容

  • 小売スペース賃貸、不動産の開発・運営・売却

圧倒的な事業規模

  • ハノイ市とホーチミン市の2大都市を中心に、全国63省・市中48省・市で88か所を運営
  • 売場の延べ床面積が約190万m2に上り、小売スペース市場で国内最大規模を誇る(2024年末)

ビングループ傘下での戦略的位置づけ

VREを理解する上で重要なのが、ビングループ(VIC)傘下での戦略的位置づけです。

ビングループとの関係性 VREは2012年の設立時から、ビングループが2004年に立ち上げたショッピングモールブランド「ビンコム」を継承し、次々と新店舗をオープンしてきました。VIC傘下の商業施設デベロッパーとして、VICの展開する大規模都市区内にショッピングセンターを建設し、VICの強力なエコシステムによる恩恵を享受しています。

2024年4月の株主構成変更 VICは2024年4月、VREの大株主であるサド・トレーディング・コマーシャル(Sado Trading Commercial)株99%超を保有する子会社SDI貿易開発投資(SDI Trading Development And Investment)の持ち株55%をすべて売却しました。これにより、SDI貿易開発投資はVICの子会社から、サド・トレーディング・コマーシャルはVICの孫会社からそれぞれ外れました。

現在VICは間接保有していたVRE株約40%を売却したものの、依然約18%を直接保有しており大株主に留まっています。

財務分析:消費市場拡大の恩恵を受けた力強い成長

VREの財務データを見ると、ベトナムの消費市場拡大による恩恵が顕著に表れています。

売上高推移

  • 2022年:73兆6144億VND
  • 2023年:97兆9134億VND(+33.1%)
  • 2024年:89兆3912億VND(▲8.7%)
  • 2025年Q1:21兆3142億VND(通年予想:約92兆1400億VND)

2023年は大幅な増収を達成しましたが、2024年は若干の減収となりました。これは一部大型プロジェクトの売却タイミングの影響と考えられます。

収益性の高さ

  • 営業利益:2024年が37兆7260億VND(営業利益率42.2%)
  • 税引前利益:2024年が51兆3333億VND(前年比▲7.0%)
  • 税引後利益:2024年が40兆9578億VND(前年比▲7.1%)

営業利益率42.2%という数字は非常に高い水準です。これは高級商業不動産の賃貸事業の収益性の高さを示しています。

財務健全性

  • ROE:2024年10.27%
  • ROA:2024年7.96%
  • BPS:18,002VND

これらの指標は健全な水準を示しており、安定した事業基盤を持っています。

PBR・PER分析:割安性を数字で検証

投資判断において重要な株価の割安性について、PBRとPERの観点から分析してみましょう。

PBR(株価純資産倍率)分析

  • 現在のPBR:1.03倍(2025年Q1時点)
  • 過去3年推移:2022年1.83倍 → 2023年1.43倍 → 2024年0.95倍

PBR1.03倍という水準は、資産価値にほぼ等しい評価を意味しており、割安感があります。特に優良な商業不動産を多数保有する企業としては非常に魅力的な評価水準です。

PER(株価収益率)分析

  • 2025年予想PER:16.27倍

PER16.27倍は不動産株としては妥当な水準です。特に高い収益性を持つ商業不動産事業を考慮すると、適正な評価と言えるでしょう。

配当政策

  • 継続的に無配を維持

VREは設立以来無配を継続していますが、これは積極的な事業拡大による成長を優先しているためです。今後の業績安定化により配当開始の可能性もあります。

割安性の判断 現在の株価28,150VNDは、PBR1.03倍という資産価値に近い評価を考慮すると、長期投資には魅力的な水準だと判断します。特に2025年以降の新規ショッピングモール開業による収益拡大を考慮すると、投資妙味があります。

事業戦略:次世代型モールで差別化を図る

VREの2025年以降の戦略で注目すべきは、大型ショッピングモールの積極的な展開です。

2025年業績計画

  • 売上高:9兆5200億VND(前年比+6%)
  • 税引後利益:4兆7000億VND(前年比+15%)

この目標を達成すれば、税引後利益が過去最高を記録することになります。

大型プロジェクトの展開 2025年中に、以下の3つの新しいショッピングモールを開業予定です:

  1. ビンコムメガモール・オーシャンシティ(Vincom Mega Mall Ocean City)(北部紅河デルタ地方フンイエン省)
  2. ビンコムメガモール・ロイヤルアイランド(Vincom Mega Mall Royal Island)(同ハイフォン市)
  3. ビンコムプラザ・ビン(Vincom Plaza Vinh)(北中部沿岸地方ゲアン省)

これらにより、約12万m2の商業床面積が追加される予定です。

次世代型モールの開発 「ワンストップ・ショッパーテインメント・デスティネーション」モデルを基盤とした次世代型モールの開発を強化し、テーマ型の商業街区も展開することで、顧客満足度の向上を目指しています。

主要ショッピングモールブランドの展開

VREは4つのショッピングセンターブランドを展開しており、それぞれ異なるターゲットと立地戦略を持っています。

ビンコム・センター(Vincom Center) 大都市の一等地に立地する高級ショッピングモール。最も収益性の高いフラッグシップ店舗群。

ビンコム・メガモール(Vincom Mega Mall) 都市部の好立地に建設される大型ショッピングモール。家族連れをメインターゲットとした総合型施設。

ビンコム・プラザ(Vincom Plaza) 地方都市に展開される中規模ショッピングモール。地域密着型の商業施設。

ビンコム・プラス(Vincom+) 地方都市向けのコンパクトな商業施設。アクセス重視の立地戦略。

現地で実感するVREの圧倒的存在感

数字だけでは表現できないVREの真の価値は、現地での実体験にあります。

商業施設の質の高さ 私が実際に利用しているVREの施設は、どれも非常に高い品質を保っています。清潔感、テナントの充実度、顧客サービスのレベルなど、すべてがベトナムの商業施設としては最高水準にあります。

立地戦略の巧妙さ VREのショッピングモールは、どれも抜群の立地に建設されています。交通アクセスの良さ、周辺の開発計画との連携など、長期的な視点での立地選定が光ります。

テナントミックスの秀逸さ 国際的な高級ブランドから地元の人気店舗まで、絶妙なテナントミックスにより、幅広い顧客層を取り込んでいます。特に飲食エリアの充実度は他を圧倒しています。

投資リスクの冷静な分析

不動産株への投資にはリスクも伴います。現地にいるからこそ見えるリスクも含めて正直にお話しします。

消費市況変動リスク ベトナムの個人消費動向に大きく依存するため、経済情勢悪化時には賃料収入や稼働率の低下リスクがあります。

競合激化リスク 外資系デベロッパーの参入や他の大手不動産会社との競争激化により、テナント誘致競争が激しくなるリスクがあります。

開発プロジェクトリスク 大型ショッピングモールの建設には巨額の投資が必要で、工期遅延や建設コスト増加のリスクがあります。

ビングループとの関係変化リスク 親会社であるビングループとの関係性変化により、シナジー効果が減少するリスクがあります。

規制変更リスク 外資規制や不動産関連法規の変更により、事業運営に影響が生じる可能性があります。

投資判断:ベトナム消費市場拡大の恩恵を受ける優良不動産株

これらの分析を踏まえ、私はVRE株を「ベトナム消費市場拡大の恩恵を最大限に享受できる優良不動産株」として注目しています。

投資の理由

  1. ベトナム高級商業不動産市場での圧倒的地位
  2. 営業利益率42%という高い収益性
  3. PBR1.03倍という割安な評価水準
  4. 2025年の大型モール開業による成長加速
  5. ビングループとの戦略的シナジー

懸念点

  • 消費市況変動への高い感応度
  • 競合激化による賃料下落リスク
  • 巨額投資による短期的な利益圧迫
  • 無配継続による株主還元の不透明さ

目標株価・投資戦略 現在の株価28,150VNDは、PBR1.03倍という割安な評価を考慮すると魅力的な投資機会だと判断します。2025年の新規モール開業と業績改善により、35,000-38,000VND程度への上昇を期待できると考えています。

ポートフォリオでの位置づけ 私のポートフォリオでは「ベトナム消費・不動産セクターの中核銘柄」として位置づけており、中間層拡大と消費市場成熟化の恩恵を取り込む戦略的投資として保有しています。

まとめ:ベトナム消費社会の発展を支える企業

ビンコムリテール(VRE)は、単なる不動産会社ではありません。ベトナムの消費文化の発展を牽引し、地方都市の商業インフラを整備し、国際的な小売ブランドの進出を支援する重要な役割を担っています。

現地で生活していると、この会社がベトナム社会にとってどれほど重要な存在かを日々実感します。家族の週末の過ごし方から若者のデートスポットまで、VREのショッピングモールは現代ベトナム人の生活に深く根ざした存在になっています。

PBR・PER分析からも、現在の株価水準は長期投資に適した魅力的な範囲にあることが確認できました。特に2025年以降の大型モール開業と次世代型施設の展開は、大きな成長機会となると期待しています。

確かに短期的には消費市況変動や競合リスクもありますが、長期的にはベトナムの中間層拡大と消費市場の成熟化という大きなトレンドの最大の受益者になると確信しています。

投資は自己責任ですが、ベトナムの消費市場成長に賭けたい投資家にとって、VRE株は検討に値する銘柄だと考えています。

皆さんはどう思われますか?ベトナムの消費市場や商業不動産業界の成長性について、ぜひコメントで意見交換させていただければと思います。


この記事は2025年8月時点の情報に基づいており、投資判断は自己責任でお願いします。より詳細な不動産セクター分析や投資戦略については、メンバーシップで定期的にお届けしています。

noteメンバーシップのご案内

ベトテク太郎noteメンバーシップ

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次