ドウックザン化学(DGC)株投資ガイド:世界の黄リン市場を支配するベトナム化学大手を現地12年の経験で徹底解説

先日、北部のクアンニン省にあるドウックザン化学の工場を視察する機会がありました。巨大な化学プラントから立ち上る白煙と、整然と並ぶ製品保管倉庫の光景は圧倒的でした。案内してくれた工場責任者から「うちの黄リンは世界シェアの3分の1を占めている」と聞いた時、この会社の国際的な影響力の大きさを実感しました。

現地で事業を営んでいると、ドウックザン化学(DGC)という会社がベトナムの化学工業、そして世界の半導体産業にとってどれほど重要な存在かを知ることができます。半導体原料の黄リンで世界需要の3割を生産する隠れたグローバルチャンピオン企業です。

今日は私のポートフォリオでも注目している銘柄の一つ、ドウックザン化学について現地在住12年の視点から詳しく分析していきます。

目次

ドウックザン化学(DGC)とは?世界の黄リン市場を支配する化学メーカー

まず基本情報から整理していきましょう。ドウックザン化学(証券コード:DGC)は1963年に設立され、2014年に上場したベトナム最大の化学品メーカーです。

基本データ(2025年7月15日現在)

  • 資本金:37兆9779億VND
  • 流通株式数:3億7977万株
  • 株価:102,400VND
  • 時価総額:約38兆8893億VND
  • 外国人保有率:14.00%

主な事業内容

  • 化学品・化学製品の生産・販売
  • ゴム製品、塗料、プラスチック、肥料、鉄鋼、非鉄金属の生産・販売
  • 機械、電気設備・部品・資材の生産・販売
  • 動植性燃料及び関連製品、液体材料、各種動植物ワックスの生産・販売等

圧倒的な市場地位

  • 黄リンの年産能力は7万2000tで国内最大規模を誇り、全国の黄リンメーカーの年産能力合計の半分を占める
  • 半導体原料である世界の黄リン輸出量の3分の1を占める
  • 製品は電子製品や食品、飼料生産など多くの製造分野で使用され、製品の約8割は輸出向け

事業構成:黄リンを中心とした多角化戦略

DGCの事業の特徴は、黄リンを中核とした多角的な化学製品ポートフォリオにあります。

売上高構成比(2024年)

  • 黄リン:43%
  • りん酸:15%
  • MAP肥料:11%
  • その他:30%

市場別売上構成(2024年)

  • 輸出:68%
  • 国内販売:32%

この数字からも分かる通り、DGCは明確に輸出志向の企業であり、世界市場での競争力を持っています。主な輸出先はインド、日本、韓国、台湾、米国、欧州諸国などです。

財務分析:資源価格変動の影響を受ける業績

DGCの財務データを見ると、化学製品価格の変動に連動した業績の波が見て取れます。

売上高推移

  • 2022年:144兆4411億VND
  • 2023年:97兆4805億VND(▲32.5%)
  • 2024年:98兆6497億VND(+1.2%)
  • 2025年Q1:28兆1031億VND(通年予想:約106兆6100億VND)

2023年は化学製品価格の低迷により大幅な減収となりましたが、2024年から回復基調に転じています。

収益性の変動

  • 営業利益:2024年が28兆3171億VND(営業利益率28.7%)
  • 税引前利益:2024年が34兆0028億VND(前年比▲2.4%)
  • 税引後利益:2024年が31兆740億VND(前年比▲3.9%)

営業利益率28.7%という数字は非常に高い水準です。これは黄リンという高付加価値製品に特化していることの証左です。

財務健全性

  • ROE:2024年24.16%
  • ROA:2024年19.82%
  • BPS:36,076VND

これらの指標は化学メーカーとしては優秀な水準を示しており、効率的な経営が行われています。

PBR・PER分析:割安性を数字で検証

投資判断において重要な株価の割安性について、PBRとPERの観点から分析してみましょう。

PBR(株価純資産倍率)分析

  • 現在のPBR:2.64倍(2025年Q1時点)
  • 過去3年推移:2022年2.06倍 → 2023年2.98倍 → 2024年3.23倍

PBR2.64倍という水準は、高い収益性を持つ化学メーカーとしては妥当な範囲内です。特に世界的な市場地位を考慮すると適正な評価と言えるでしょう。

PER(株価収益率)分析

  • 2025年予想PER:12.60倍

PER12.60倍は化学株としては魅力的な水準です。特にグローバルニッチ企業としての地位と高い収益性を考慮すると、割安感があると判断できます。

配当利回りの魅力

  • 2024年配当:3,000VND(配当利回り約2.9%)
  • 2023年配当:3,000VND
  • 2022年配当:4,000VND

配当利回り2.9%は決して高くありませんが、安定した配当を継続している点は評価できます。

割安性の判断 現在の株価102,400VNDは、PER12.60倍、世界的な市場地位を考慮すると適正水準にあると判断します。特に2025年以降の設備投資完了による生産能力拡大を考慮すると、投資妙味があります。

事業戦略:大型投資で生産能力を大幅拡張

DGCの2025年以降の戦略で最も注目すべきは、大規模な設備投資による生産能力拡大です。

2025年業績計画

  • 売上高:103兆8500億VND(前年比+5%)
  • 税引後利益:3兆VND(前年比+3%減)

売上増加の一方で利益減少を予想していますが、これは大型投資に伴う減価償却費増加などが要因と考えられます。

大型化学製品生産コンプレックス案件 場所:北中部地方クインホア省ギーソン工業団地 投資総額:12兆VND 内容:

  • 第1期:2兆4000億VND
  • 第2期:6兆VND
  • 第3期:3兆6000億VND

第1期は2025年2月に着工済みで、同期では苛性ソーダ工場(年産能力8万t)、ポリ塩化アルミニウム工場(同3万t)、次亜塩素酸カルシウム工場(同2万t)、亜リン酸工場(同1万t)などが建設される予定です。

ボーキサイト鉱山・アルミナ製錬コンプレックス案件 場所:南中部高原地方ダクノン省 投資総額:57兆VND 実施時期:2025年以降 年間採掘量:ボーキサイト鉱石1440万tの見込み

戦略的M&A:事業多角化の推進

DGCは買収合併(M&A)を通じて企業のバリューチェーンを拡大し、製品を多様化する戦略の一環として、積極的な買収活動を行っています。

主要な買収実績

  • 2023年:第6リン(Phosphorus 6)やタイアサンバッテリー[TSB](Tibaco)を買収、子会社化
  • 2024年:ダイベットアルコール工場タイベット(Dai Viet)(南中部高原地方ダクノン省、年産能力5万t)を買収

これらの買収により、事業の多角化と川下展開を進めています。

世界的な黄リン市場での圧倒的地位

DGCの最大の強みは、半導体原料として不可欠な黄リン市場での圧倒的な地位です。

黄リンの重要性 黄リンは電子製品や食品、飼料生産など多くの製造分野で使用され、特に半導体製造には不可欠な原料です。世界的に急成長中の電気自動車(EV)分野で使用されるリチウム電池のサプライチェーンにも参加すべく、LFP電池(リン酸鉄リチウムイオン電池)などの新製品の研究開発(R&D)に注力しています。

グローバル市場での地位 プロトタイプ(試作モデル)は既に韓国や日本、欧州連合(EU)などの潜在顧客に届けるなどして販売促進を行っており、世界的な需要拡大の恩恵を受ける立場にあります。

現地で実感するDGCの技術力と存在感

数字だけでは表現できないDGCの真の価値は、現地での技術力と産業への影響力にあります。

技術革新への投資 私が訪問した研究開発センターでは、最新の化学分析装置と優秀な技術者たちが次世代製品の開発に取り組んでいました。特にリチウム電池関連の新素材開発は、世界的な競争力を持つ水準にあります。

環境配慮への取り組み 化学工場というと環境負荷が心配されがちですが、DGCは排水処理や大気汚染防止において高い基準を維持しています。実際に工場周辺を視察した際も、環境への配慮が徹底されていることを確認できました。

地域経済への貢献 クアンニン省では重要な雇用機会を提供し、関連産業の集積にも貢献しています。地元政府からの支援も厚く、長期的な事業継続性が担保されています。

投資リスクの冷静な分析

化学株への投資にはリスクも伴います。現地にいるからこそ見えるリスクも含めて正直にお話しします。

化学製品価格変動リスク 黄リンやりん酸などの化学製品価格は国際商品市況の影響を大きく受けます。原油価格や世界経済の動向により収益が大きく変動するリスクがあります。

環境規制強化リスク 化学工場に対する環境規制は年々厳しくなっており、設備投資や運営コストの増加要因となる可能性があります。

原材料調達リスク 主原料である燐鉱石の調達価格や供給安定性が事業に大きな影響を与えます。特に中国などからの輸入に依存している部分があります。

競合激化リスク 世界的な黄リン需要拡大を受けて、新規参入者や既存競合の増産により競争が激化するリスクがあります。

大型投資の回収リスク 現在進行中の大型投資プロジェクトが計画通り進まない場合、財務負担が重くなるリスクがあります。

投資判断:グローバルニッチ市場のリーディング企業

これらの分析を踏まえ、私はDGC株を「グローバルニッチ市場でのリーディングポジションを活かした成長企業」として注目しています。

投資の理由

  1. 世界黄リン市場での圧倒的シェア(3分の1)
  2. 半導体・EV関連需要拡大の恩恵
  3. PER12.60倍という妥当な評価水準
  4. ROE24%という高い収益性
  5. 大型投資による生産能力拡大

懸念点

  • 化学製品価格変動への高い感応度
  • 環境規制強化による投資負担増加
  • 大型投資による短期的な利益圧迫
  • 原材料調達リスクの存在

目標株価・投資戦略 現在の株価102,400VNDは、PER・事業の成長性を考慮すると適正水準にあります。2026年以降の新設備稼働と世界的な黄リン需要拡大により、120,000-130,000VND程度への上昇を期待できると考えています。

ポートフォリオでの位置づけ 私のポートフォリオでは「グローバルニッチ企業」として位置づけており、世界的な産業トレンドの恩恵を受ける特殊化学品メーカーとして長期保有を前提とした投資を行っています。

まとめ:世界の半導体産業を支える隠れたチャンピオン企業

ドウックザン化学(DGC)は、単なるベトナムの化学会社ではありません。世界の半導体産業、電気自動車産業の発展を支える重要な素材を供給するグローバル企業です。

現地で事業を営んでいると、この会社が世界の産業にとってどれほど重要な存在かを実感します。スマートフォンからEVまで、現代社会に不可欠な製品の多くにDGCの製品が使われています。

PER・ROE分析からも、現在の株価水準は長期投資に適した範囲にあることが確認できました。特に2025年以降の大型投資完成と世界的な需要拡大は、大きな成長機会となると期待しています。

確かに短期的には化学製品価格変動や投資負担などのリスクもありますが、長期的には世界的な産業トレンドの最大の受益者になると確信しています。

投資は自己責任ですが、グローバルニッチ市場での成長企業への投資を検討している投資家にとって、DGC株は検討に値する銘柄だと考えています。

皆さんはどう思われますか?ベトナムの化学工業や世界の半導体産業の成長について、ぜひコメントで意見交換させていただければと思います。


この記事は2025年8月時点の情報に基づいており、投資判断は自己責任でお願いします。より詳細な化学セクター分析や投資戦略については、メンバーシップで定期的にお届けしています。

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