先日、ハノイ郊外の新しい工業団地を視察した際、その整備の充実ぶりに驚きました。インフラ設備、アクセス道路、排水処理施設まで、すべてが計画的に配置されており、海外企業が安心して進出できる環境が整備されていました。案内してくれた担当者から「これらの建設資材の多くはビグラセラが供給している」と聞いた時、この会社がベトナムの産業インフラ整備にどれほど重要な役割を果たしているかを実感しました。
現地で事業を営んでいると、ビグラセラ(VGC)という会社がベトナムの建設業界と工業団地開発においてどれほど包括的な事業を展開しているかが分かります。1974年に設立された建設省傘下の建設用瓦セラミック製品会社から発展し、現在では建設資材メーカーとして工業団地開発大手へと成長した総合企業です。
今日は私のポートフォリオでも注目している銘柄の一つ、ビグラセラについて現地在住12年の視点から詳しく分析していきます。
ビグラセラ(VGC)とは?建設資材から工業団地開発まで手がける総合企業
まず基本情報から整理していきましょう。ビグラセラ(証券コード:VGC)は1974年に設立され、2016年に上場したベトナムの建設資材メーカー兼工業団地デベロッパーです。
基本データ(2025年7月15日現在)
- 資本金:4兆4835億VND
- 流通株式数:4億4835万株
- 株価:45,950VND
- 時価総額:約20兆6006億VND
- 外国人保有率:5.00%
主な事業内容
- 建設資材生産販売
- 不動産開発・販売・運営
- 建設業
売上高構成比(2024年)
- 建設資材:63%
- 工業団地賃貸:28%
- 不動産開発:2%
- その他:7%
この構成を見ると、VGCは建設資材事業を基盤としながら、工業団地事業で収益を多角化している戦略的な企業であることが分かります。
事業の特徴:ベトナム最大級の建設資材メーカー
VGCの最大の強みは、ベトナム建設業界での圧倒的な存在感と幅広い製品ラインナップです。
建設資材事業の規模 国内トップクラスの建設資材メーカーとして、レンガ、瓦、タイル、ガラス、鏡、衛生設備機器、軽量気泡コンクリートレンガ、ホワイトサンドなど幅広い商品ラインアップを包括的に取り扱っています。全国63省・市に代理店網を確保し、国内でブランド力が極めて高い地位を築いています。
グローバル展開 製品はタイ、マレーシア、フィリピン、カンボジア、台湾、インド、バングラデシュ、ロシア、フランス、オーストラリア、イタリア、米国、キューバなど世界40か国にも輸出しており、国際的な競争力も備えています。
工業団地開発事業 建設資材会社として当局と太いパイプを築いており、不動産開発用地を優先的に確保、工業団地を中心に不動産開発を手掛けています。国内で立地条件の良い工業団地17か所とキューバのマリエル特別経済開発区(ZEDM)での工業団地1か所を展開(2023年末)しています。
財務分析:安定した成長を続ける収益構造
VGCの財務データを見ると、建設資材と工業団地事業の相乗効果による安定した成長が見て取れます。
売上高推移
- 2022年:145兆9245億VND
- 2023年:131兆9332億VND(▲9.6%)
- 2024年:119兆636億VND(▲9.7%)
- 2025年Q1:28兆5470億VND(通年予想:約144兆3700億VND)
2023年と2024年は連続して減収となりましたが、2025年は21%の増収を予想しており、回復基調に転じる見通しです。
収益性の安定
- 営業利益:2024年が19兆1037億VND(営業利益率16.0%)
- 税引前利益:2024年が16兆3033億VND(前年比+1.8%)
- 税引後利益:2024年が11兆8762億VND(前年比+2.2%)
営業利益率16%という水準は製造業としては非常に優秀で、工業団地賃貸事業の高い収益性が寄与していると考えられます。
財務健全性
- ROE:2024年12.19%
- ROA:2024年4.85%
- BPS:22,199VND
これらの指標は健全な水準を示しており、安定した事業基盤を持っています。
PBR・PER分析:割安性を数字で検証
投資判断において重要な株価の割安性について、PBRとPERの観点から分析してみましょう。
PBR(株価純資産倍率)分析
- 現在のPBR:2.14倍(2025年Q1時点)
- 過去3年推移:2022年1.67倍 → 2023年2.58倍 → 2024年2.02倍
PBR2.14倍という水準は、製造業兼不動産開発業としては妥当な範囲内です。特に工業団地という収益性の高い資産を保有している企業としては適正な評価と言えるでしょう。
PER(株価収益率)分析
- 2025年予想PER:18.24倍
PER18.24倍は成長企業としては魅力的な水準です。特に工業団地事業の安定した収益性を考慮すると、妥当な評価と判断できます。
配当政策の変化
- 2024年配当:0VND(無配)
- 2023年配当:2,250VND
- 2022年配当:2,000VND
2024年は無配でしたが、これは大型投資による成長を優先した結果と考えられます。過去の配当実績を見ると、業績回復時には配当復活の可能性があります。
割安性の判断 現在の株価45,950VNDは、PBR・PERともに適正水準にあると判断します。特に2025年の業績回復期待と大型工業団地プロジェクトの展開を考慮すると、投資妙味があります。
事業戦略:大規模工業団地開発で成長加速
VGCの2025年以降の戦略で最も注目すべきは、大型工業団地プロジェクトの本格展開です。
2025年業績計画
- 売上高:144兆3700億VND(前年比+21%)
- 税引前利益:17兆4300億VND(前年比+7%)
- 配当:額面比22%
大型プロジェクトの展開 建設省が保有する株式の売却を加速し、2025年末までの完了を目指すとともに、以下の大型プロジェクトを推進します:
- 第2ソンコン工業団地(東北部地方タイグエン省、296ha)の建設を着工
- ソックダーチャン工業団地(南中部沿岸地方カインホア省、288ha)
- チャンイエン工業団地(西北部地方イエンバイ省、255ha)の工業団地2か所の着工
環境配慮型スマート工業団地プロジェクト 「第1トゥアンタイン工業団地(別称:トゥアンタイン・エコ・スマート工業団地=Thuan Thanh Eco-Smart IP)」を開発。同工業団地は、北部紅河デルタ地方バクニン省トゥアンタイン町(thi xa Thuan Thanh)の262haの用地に開発され、投資総額は3兆VNDの見込みです。
社会住宅開発への参入 2030年までに低所得者・工業団地工場労働者向け社会住宅(政府・地方自治体が建設・購入を支援する低所得者・公務員向け住宅)5万戸を開発する計画を発表しています。
工業団地数の大幅拡張 2025年までに工業団地の数を20か所に増やし、用地面積を+2000-3000ha増やす野心的な計画を持っています。
建設資材事業の拡張計画
工業団地開発と並行して、建設資材事業でも大幅な設備拡張を計画しています。
新規生産設備の建設
- 東南部地方バリア・ブンタウ省のフーミー・ウルトラクリアーフロートガラス工場の第2期(日産能力900t)を展開するほか、倉庫施設も増設
- キューバで運営する工業団地2か所の第2期を展開し、ドミニカに工業団地や建設資材工場を建設
これらの投資により、国内市場でのシェア拡大と海外展開の加速を図っています。
現地で実感するVGCの技術力と品質
数字だけでは表現できないVGCの真の価値は、現地での製品品質と技術力の高さにあります。
建設資材の品質 私が実際に建設現場で目にするVGCの製品は、品質が非常に高く、耐久性に優れています。特にタイルやレンガの品質は、海外製品と比較しても遜色ないレベルにあります。
工業団地の設備水準 VGCが開発した工業団地を視察した際、インフラ整備の充実度に驚かされました。電力供給、給排水設備、通信インフラなど、国際基準を満たす設備が整備されており、外資系企業も安心して進出できる環境です。
環境配慮への取り組み 最新のスマート工業団地プロジェクトでは、環境負荷軽減と持続可能性を重視した設計が採用されており、ESG投資の観点からも評価できます。
投資リスクの冷静な分析
建設・不動産株への投資にはリスクも伴います。現地にいるからこそ見えるリスクも含めて正直にお話しします。
建設市況変動リスク 建設資材需要は景気動向に大きく左右されるため、経済情勢悪化時には需要減少のリスクがあります。
原材料価格変動リスク セメント、鉄鋼などの原材料価格変動は直接的に収益に影響します。特に国際商品価格の上昇は利益を圧迫します。
工業団地開発リスク 大型工業団地開発には巨額の投資が必要で、入居企業の確保や工期遅延のリスクがあります。
競合激化リスク 建設資材市場では多くの企業が競合しており、価格競争の激化や市場シェア低下のリスクがあります。
規制変更リスク 建設・不動産業界は規制が多く、環境規制や土地利用規制の変更が事業に影響する可能性があります。
投資判断:ベトナム産業インフラ発展の中核企業
これらの分析を踏まえ、私はVGC株を「ベトナムの産業インフラ発展と工業化進展の恩恵を受ける中核企業」として注目しています。
投資の理由
- ベトナム建設資材市場での圧倒的ブランド力と市場地位
- 工業団地事業による収益の多角化と安定化
- 2025年の21%増収計画と大型プロジェクト展開
- PER18.24倍という妥当な評価水準
- 海外展開による成長余地
懸念点
- 建設市況変動への感応度の高さ
- 原材料価格変動による利益変動リスク
- 大型投資による短期的な財務負担
- 2024年の無配継続
目標株価・投資戦略 現在の株価45,950VNDは、2025年の業績計画と大型プロジェクト効果を考慮すると適正水準にあります。工業団地事業の本格拡大により、55,000-60,000VND程度への上昇を期待できると考えています。
ポートフォリオでの位置づけ 私のポートフォリオでは「ベトナム産業インフラ・建設セクターの成長銘柄」として位置づけており、国の工業化進展と外資誘致拡大の恩恵を取り込む戦略的投資として保有しています。
まとめ:ベトナム産業発展の基盤を支える企業
ビグラセラ(VGC)は、単なる建設資材会社ではありません。ベトナムの産業インフラを支え、工業化を推進し、外資系企業の進出を支援する重要な役割を担っています。
現地で事業を営んでいると、この会社がベトナムの産業発展にとってどれほど重要な存在かを実感します。品質の高い建設資材の供給から、国際水準の工業団地開発まで、ベトナム経済の成長基盤を多方面で支えています。
PBR・PER分析からも、現在の株価水準は長期投資に適した範囲にあることが確認できました。特に2025年以降の大型工業団地プロジェクトと建設資材事業の拡張は、大きな成長機会となると期待しています。
確かに短期的には建設市況変動や原材料価格リスクもありますが、長期的にはベトナムの工業化進展と外資誘致拡大の最大の受益者になると確信しています。
投資は自己責任ですが、ベトナムの産業インフラ発展に賭けたい投資家にとって、VGC株は検討に値する銘柄だと考えています。
皆さんはどう思われますか?ベトナムの建設・工業団地業界の成長性について、ぜひコメントで意見交換させていただければと思います。
この記事は2025年8月時点の情報に基づいており、投資判断は自己責任でお願いします。より詳細な建設・不動産セクター分析や投資戦略については、メンバーシップで定期的にお届けしています。
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