先日、家族と一緒にハノイ市内を散歩していた際、娘が急に「お腹が痛い」と言い出しました。すぐに薬を買いに行こうと思ったとき、目に飛び込んできたのは青と白のシンボリックなデザインの「FPTロンチャウ」薬局でした。店内に入ると、清潔で整理された陳列、親切なスタッフ対応、そして何より豊富な品揃えに驚かされました。
これまでの12年間のベトナム生活で、薬局といえば街角の小さな個人商店が一般的でしたが、最近はこのFPTロンチャウのような近代的な薬局チェーンが急速に存在感を増しています。今日は、このFPTロンチャウを運営し、ベトナム最大級の薬局チェーンを展開するFPTリテール(FRT)について、現地在住の視点から詳しく分析していきたいと思います。
FPTリテール(FRT)とは?ベトナムヘルスケア小売の革命児
FPTリテール(証券コード:FRT)は、2012年3月にFPT情報通信(FPT)の子会社として設立され、2018年4月26日にホーチミン証券取引所(HSX)に上場したヘルスケア小売チェーン運営会社です。
基本データ(2025年9月1日現在)
- 資本金:1兆3624億VND
- 流通株式数:1億3624万株
- 株価:130,600VND
- 時価総額:約17兆8009億VND
- 外国人保有率:32.00%
主な事業内容
- 携帯電話・タブレット・ノート型パソコンの販売
- 医薬品小売チェーン「FPTロンチャウ」の運営
- ワクチン接種センターの運営
- オンライン小売事業
圧倒的な店舗網:全国展開する近代的薬局チェーン
FRTの最大の強みは、その圧倒的な店舗展開力です。現地で生活していると、この会社の店舗に遭遇しない日はないと言っても過言ではありません。
主要ブランド・店舗数(2024年末現在)
- 携帯電話・家電販売店「FPTショップ」:634店舗
- 医薬品小売「FPTロンチャウ」:1943店舗
- ワクチン接種センター「FPTロンチャウ」:126か所
総店舗数:2703店舗
この数字は驚異的です。特に医薬品小売のFPTロンチャウが1943店舗という規模は、ベトナム全土の薬局市場において圧倒的なシェアを誇っています。実際、私の自宅から徒歩5分圏内に3つのFPTロンチャウがあり、その利便性の高さを日々実感しています。
売上高構成比率
- ヘルスケア:約60%
- 携帯・家電販売:約40%
- オンライン小売:約2%(2024年実績)
財務分析:安定成長を続ける優良企業
FRTの財務データは、ベトナムヘルスケア市場の成長を反映した安定した成長パターンを示しています。
売上高推移
- 2022年:301億6580億VND
- 2023年:318億4965億VND(+5.6%)
- 2024年:401億493億VND(+26.0%)
- 2025年Q1:116億6985億VND
- 2025年予想:468億1100億VND(+16.7%)
2024年に大幅な増収を達成し、2025年も二桁成長が見込まれています。これは医薬品小売事業の拡大とワクチン接種事業の好調が要因です。
利益面での改善
- 営業利益:2024年:約356億5400億VND(営業利益率8.9%)
- 税引前利益:2024年:約526億9570億VND(前年比+179%)
- 税引後利益:2024年:約408億4140億VND(前年比+224%)
2024年の利益成長率は驚異的で、特に税引後利益の224%増は事業の収益性向上を如実に示しています。
ROE・ROAの改善
- ROE:2024年が21.28%
- ROA:2024年が2.82%
ROE21.28%は非常に高い水準で、株主資本の効率的活用を示しています。
PBR・PER分析:成長性を加味した適正評価
投資判断において重要な株価の割安性について、詳しく分析してみましょう。
PBR(株価純資産倍率)分析
- 現在のPBR:9.64倍(2025年Q1時点)
PBR9.64倍は一見高く見えますが、高成長企業かつ無形資産(ブランド力・顧客基盤)の価値が高いヘルスケア小売業としては妥当な水準と考えられます。
PER(株価収益率)分析
- 2025年予想PER:33.9倍
PER33.9倍は成長株として妥当な評価水準です。ベトナムのヘルスケア市場拡大と同社の市場シェア拡大を考慮すると、中長期的には適正な評価と判断します。
配当政策
- 継続的に無配を維持
FRTは設立以来無配を継続していますが、これは積極的な事業拡大による成長を優先しているためです。店舗展開とシステム投資に資金を集中している段階と理解しています。
事業戦略:2025年以降の野心的展開計画
FRTの2025年以降の事業計画で最も注目すべきは、ヘルスケアエコシステムの構築です。
2025年業績目標
- 売上高:前年比+20%増の48兆1000億VND
- 税引前利益:同+71%増の90兆VND
この利益目標の大幅な増加は、同社の収益性改善への強い意欲を示しています。
医薬品事業の成長戦略 同社は医薬品チェーン「FPTロンチャウ」の成長を柱として、以下の戦略を推進しています:
- 生活必需品への展開:医薬品は生活必需品で、マクロ経済の変動による影響を受けにくいため、今後も継続的な成長が見込まれる
- 健康管理分野への人工知能(AI)技術導入:運営効率の改善と顧客満足度の向上を図る
- 2025年中に薬局350店舗とワクチン接種センター80店舗の新規開設を目指す:350店舗という数値は非常に野心的で、収益性が確認されればさらなる出店も視野に入る
マネージメントによる成長戦略発表 本社を置くプライベートエクイティ会社のクレアドール(Creador)との戦略的提携により、クレアドールが保有するFPTロンチャウ株の13%を取得する計画があります。取得株の50%は新株発行によるもので、残りは既存株主からの取得となり、取引は今後1年以内に完了する見込みです。
ヘルスケアエコシステムの構築 中長期的な成長戦略として、ヘルスケア・エコシステムの構築を推進しています。これには医薬品販売やワクチン接種に加え、検査、在宅医療、栄養管理、電子商取引(EC)、保険などの分野が含まれます。
特にFPTロンチャウは今後数年間で事業規模の拡大を図り、健康管理分野における新しいビジネスモデルの展開を目指しています。経営効率の低い店舗を閉鎖するなどして「FPTショップ」店舗網の最適化を行い、実用とワクチン接種センターの店舗数を増やしています。
現地で感じるFRTの革新性
数字だけでは表現できないFRTの真の価値は、現地での顧客体験とヘルスケアサービスの質の向上にあります。
圧倒的なサービス品質 FPTロンチャウの店舗では、薬剤師が常駐し、専門的なアドバイスを提供してくれます。従来のベトナムの薬局では考えられなかった高品質なサービスです。
デジタル化の推進 処方箋の電子化、オンライン注文システム、在庫管理システムなど、IT分野で培ったFPTグループのノウハウを活かしたデジタル化が進んでいます。
ワクチン接種インフラの整備 COVID-19対応で構築されたワクチン接種センターは、今後の予防医療において重要な社会インフラとなっています。実際、私も家族のワクチン接種でFPTロンチャウのセンターを利用しましたが、その効率性と安全性に感動しました。
投資分析:強みとリスク要因
強み(5つ以上)
- ベトナム最大級の薬局チェーン:1943店舗という圧倒的な店舗網
- FPTグループのブランド力:ベトナムIT業界の雄であるFPTグループの信頼性
- 成長市場でのポジション:拡大するヘルスケア市場での圧倒的シェア
- デジタル化の先進性:ITグループのノウハウを活かした効率的な運営
- 多角化された事業ポートフォリオ:薬局・携帯販売・ワクチン接種の3本柱
- 政府政策との親和性:国民の健康増進政策と事業方向性が合致
- 安定した顧客基盤:ヘルスケアという生活必需サービス
リスク要因(5つ以上)
- 競合の激化:国内外の薬局チェーンとの競争激化
- 規制変更リスク:医薬品販売に関する規制強化の可能性
- 人材確保の困難:薬剤師などの専門人材不足
- 賃料上昇リスク:主要都市部での店舗賃料上昇圧力
- 経済減速の影響:消費低迷による来店客数減少リスク
- 為替変動リスク:医薬品輸入コストへの影響
- デジタル化コスト:システム投資による短期的な収益圧迫
投資判断・目標株価
現在株価の妥当性評価
現在の株価130,600VNDは、2025年予想PER33.9倍という評価です。ベトナムのヘルスケア小売業界の成長性を考慮すると、以下の要因から非常に魅力的な投資機会と判断します:
- 市場成長率:ベトナムヘルスケア市場の年平均成長率10-15%
- 市場シェア拡大:薬局市場での更なるシェア拡大余地
- 収益性改善:規模の経済によるマージン改善期待
- 株価調整:7月から約31%の調整で割安感が大幅に向上
目標株価レンジ
12ヶ月目標株価:160,000-180,000VND(現在比+23-38%)
算出根拠
- 2026年予想EPS:約5,500VND
- 適正PER:29-33倍(成長性とリスクを考慮した保守的評価)
- 目標株価 = 5,500VND × 29-33倍 = 159,500-181,500VND
投資戦略・推奨保有期間
推奨投資戦略:長期成長投資(3-5年保有) リスク許容度:中-高リスク 推奨投資比率:ポートフォリオの3-5%
ベトテク太郎ポートフォリオでの位置づけ
私のポートフォリオでは「ベトナム内需・ヘルスケア関連株の中核」として位置づけており、FPT・VICと並ぶ長期保有銘柄として保有を継続しています。特にベトナムの少子高齢化進展を見据えた戦略的保有と考えています。
まとめ:ベトナム社会のヘルスケア向上に貢献する企業
FPTリテール(FRT)は、単なる薬局チェーンではありません。ベトナム国民の健康水準向上、医療アクセスの改善、そして近代的なヘルスケアサービスの普及に大きく貢献している社会的意義の高い企業です。
現地で生活していると、この会社がベトナム社会に与えている正の影響を日々実感します。従来の個人経営薬局では得られなかった専門的なアドバイス、安全で効果的な医薬品の提供、そして予防医療の推進など、どれをとってもFRTの貢献は計り知れません。
長期的には、ベトナムの経済成長に伴う中間層拡大、高齢化社会の進展、健康意識の向上という3つの大きなトレンドの恩恵を最も受ける企業の一つになると確信しています。
確かに高い成長期待が株価に織り込まれており、短期的な変動リスクはありますが、5年後、10年後のベトナム社会を考えたとき、FRTのような企業への投資は非常に意義深いものになると考えています。
投資を検討される方へ FRT株への投資は、ベトナムの社会発展とヘルスケア向上への長期的な投資と捉えることをお勧めします。短期的な株価変動に一喜一憂するのではなく、同社のヘルスケアエコシステム構築という壮大なビジョンに共感できるかどうかが投資判断の鍵になるでしょう。
皆さんはどう思われますか?ベトナムヘルスケア市場の成長性や、FRTの戦略についてぜひコメントで意見交換させていただければと思います。
この分析レポートは2025年9月1日時点の情報に基づいており、投資判断は自己責任でお願いします。より詳細な分析や最新の投資情報については、メンバーシップで定期的にお届けしています。
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