こんにちは、ベトナム株投資アドバイザーのベトテク太郎です。
ベトナムの証券市場で、今、静かに、しかし確実に起きている大きな変化があります。それは、銀行系証券会社の急速な台頭です。
ハノイで生活していて、証券会社の動向を見ていると、ここ数年で市場の構造が大きく変わってきているのを肌で感じます。かつては独立系証券会社が市場を席巻していましたが、今や銀行の支援を受けた証券会社が急激にシェアを伸ばし、業界の勢力図を塗り替えつつあるのです。
今回は、このベトナム証券業界における構造変化と、投資家にとって何を意味するのかを現地の視点から解説します。
銀行系証券会社とは何か
まず、銀行系証券会社について整理しておきましょう。ベトナムには大きく分けて2つのタイプがあります。
1つ目は、銀行が直接所有し、銀行名を冠した証券会社です。VPバンク証券(VPBankS)、ACB証券(ACBS)、MB証券(MBS)、ベトコムバンク証券(VCBS)、テクコムバンク証券(TCBS)、ティエンフォン証券(TPS)、アグリバンク証券(Agriseco)、シンハン証券(SSV)、ベトインバンク証券(VBSE)、ヴィッキ銀行証券(VikkiBankS)、パブリックバンク証券(PBSV)などがこれに該当します。
2つ目は、銀行や銀行関係者が株主となっている証券会社です。LPバンク証券(LPBS)とLPバンク、HD証券(HDBS)とHDバンク、サイゴン・ハノイ証券(SHS)とSHB、KAFI証券とVIBといった組み合わせがあります。
この2つのタイプを合わせて「銀行系証券会社」と呼び、ここ数年、彼らの成長スピードは目を見張るものがあります。
証券業界の収益構造が激変している
なぜ銀行系証券会社が急成長しているのか。その理由を理解するには、まずベトナム証券業界の収益構造の変化を知る必要があります。
VietstockFinanceのデータによると、かつては証券会社の主要収益源は株式の仲介手数料(ブローカレッジ)でした。しかし近年、収益の中心は自己売買(トレーディング)と信用取引(マージン)に移っています。2025年1月から9月の期間で見ると、自己売買が収益の43%、信用取引が28%を占めており、この2つが収益の大部分を生み出しているのです。
特に注目すべきは信用取引の爆発的な成長です。ここで銀行系証券会社が圧倒的な強さを見せています。
信用取引残高で銀行系が急伸
2025年9月30日時点の信用取引残高ランキングを見ると、上位に銀行系証券会社がずらりと並んでいます。テクコムバンク証券(TCBS)、ACB証券(ACBS)、VPバンク証券(VPBankS)、MB証券(MBS)、KAFI証券の5社だけで、信用取引残高は約112兆ドン(約6,720億円)に達しています。
この数字、2022年末と比べると実に493%増なんです。一方、独立系証券会社の大手5社(SSI、HSC、Vietcap、VNDIRECT、VPS)の信用取引残高は約111兆ドンで、伸び率は185%にとどまっています。
つまり、銀行系証券会社は独立系証券会社の約2.6倍のスピードで信用取引を拡大しているわけです。
その結果、信用取引市場における銀行系証券会社のシェアは、2022年末の15.4%から2025年第3四半期末には29.1%へと倍増しました。対照的に、独立系証券会社大手5社のシェアは31.8%から28.9%に低下しています。
ハノイの証券取引所周辺で働く知人たちと話していても、「今は銀行系の時代だ」という声をよく聞きます。市場のプレイヤーたちも、この構造変化を明確に感じ取っているのです。
なぜ銀行系証券が強いのか
VPバンク証券のIPOロードショーで、ヴィエットキャップ証券のホアン・ナム調査分析部門長が興味深い分析をしていました。彼は、この変化を「短期的なトレンドではなく、構造的な競争優位性に基づいた市場の再編」だと指摘しています。
銀行系証券会社の最大の強みは、母体である銀行の豊富な資金力と低コストの資金調達能力です。
信用取引は、証券会社が顧客に資金を貸し付けて株式投資を行わせるサービスです。当然、証券会社自身が潤沢な資金を持っていなければなりません。ベトナムの規制では、証券会社の信用取引残高は自己資本の2倍までと決められています。
多くの独立系証券会社は、すでにこの上限に達してしまっています。つまり、これ以上信用取引を拡大できない状態です。
一方、銀行系証券会社は母体銀行から低コストで資金を調達できるため、顧客により有利な条件で信用取引を提供できます。市場が上昇トレンドにある今、投資家の信用取引需要は高まっており、銀行系証券会社はこの需要を取り込んで急成長しているのです。
実際、ハノイの投資家仲間の中でも、「信用取引の金利が安い」という理由で銀行系証券会社に口座を開く人が増えています。
商品の多様性でも優位に立つ銀行系
信用取引だけではありません。長期的に市場シェアを獲得するには、顧客の投資ニーズに幅広く応えられる商品ラインナップが必要です。
ヴィエットキャップの調査によると、ベトナムの富裕層は資産の72%を預金、不動産、金に配分しています。この比率は世界的に見てかなり高く、より高いリターンが期待できる金融商品への移行余地が大きいことを示しています。
株式、社債、投資信託、資産運用サービスなど、多様な投資商品を提供できる証券会社が、この資産移転の流れを捉えることができます。
ここでも銀行系証券会社が有利です。特に社債市場では、企業との関係性、審査能力、資金規模が成功の鍵となります。銀行の傘下にある証券会社は、銀行が持つ企業ネットワークや審査ノウハウを活用できるため、社債の引受や販売で圧倒的に強いのです。
ハノイのオフィス街を歩いていると、銀行系証券会社の広告をよく見かけます。「社債投資なら当社へ」というメッセージが目立ち、彼らがこの市場を積極的に開拓していることがうかがえます。
独立系証券会社の強みは
では、独立系証券会社に勝ち目はないのでしょうか。そうではありません。
独立系証券会社には独自の強みがあります。機関投資家向けのブローカレッジサービス、投資銀行業務、個人投資家向けの確立されたブランド、株式自己売買の豊富な経験などです。
特にSSI証券、HSC証券、ヴィエットキャップ証券といった老舗は、長年培ってきた信頼とノウハウがあります。企業のIPOやM&Aのアドバイザリー業務では、今でも独立系が強い存在感を示しています。
ただし、市場全体の流れとして、銀行系証券会社が急速に力をつけているのは間違いありません。
投資家にとって何を意味するのか
この構造変化は、私たち投資家にとってどんな意味を持つのでしょうか。
まず、選択肢が増えることはプラスです。銀行系証券会社の台頭により、より競争的な手数料体系や、より有利な信用取引条件が提供されるようになっています。
また、銀行系証券会社は母体銀行の技術インフラを活用できるため、取引アプリの使いやすさや、カスタマーサポートの質が向上する傾向にあります。実際、テクコムバンク証券やVPバンク証券のアプリは非常に洗練されており、若い世代の投資家に人気です。
一方で、市場の寡占化が進む可能性には注意が必要です。少数の大手銀行系証券会社に市場が集中すると、競争が減少し、長期的にはサービスの質や条件が悪化するリスクもあります。
個人的には、複数の証券会社に口座を持つことをお勧めします。私自身、銀行系と独立系の両方に口座を開設しており、用途に応じて使い分けています。信用取引は条件の良い銀行系、IPO投資は情報の早い独立系、といった具合です。
これからのベトナム証券業界
ベトナム証券市場は成長期にあり、個人投資家の裾野は今後も広がっていくでしょう。GDPの成長とともに、人々の所得が増え、投資余力も拡大します。
この成長市場で、銀行系証券会社は母体銀行の顧客基盤(特に預金者)を証券投資に誘導するという、独立系にはない強力なチャネルを持っています。銀行に預金しているだけでは利息が低いと感じる顧客を、証券投資に導くことができるのです。
今後、銀行系証券会社のシェアはさらに拡大すると予想されます。ただし、独立系証券会社も専門性を武器に生き残りをかけた戦いを続けるはずです。
ヴィエットキャップのホアン・ナム部長の言葉を借りれば、これは「市場の再編」であり、一時的なブームではありません。ベトナム株に投資する私たちは、この構造変化を理解し、自分の投資スタイルに合った証券会社を選ぶことが重要です。
まとめ
ベトナムの証券業界では、銀行系証券会社が急速に台頭し、市場の勢力図が大きく変わりつつあります。信用取引市場でのシェア拡大が象徴的ですが、その背景には母体銀行の資金力、顧客基盤、技術力という構造的な強みがあります。
一方で、独立系証券会社も専門性や信頼というアドバンテージを持っており、市場にはまだ多様性が残っています。
投資家としては、この変化を冷静に見極め、自分にとって最適な証券会社を選ぶことが大切です。複数の口座を持ち、用途に応じて使い分けるのも賢い戦略でしょう。
ベトナム株投資の魅力は、こうした市場の成長と変化を間近で体験できることにもあります。現地に住んでいるからこそ感じる、この市場のダイナミズムを、これからも皆さんと共有していきたいと思います。
いかがでしたでしょうか。今回のベトナム証券業界の構造変化について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
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