こんにちは、ベトナム株投資アドバイザーのベトテク太郎です。
ハノイのタイ湖エリアで朝のコーヒーを飲んでいたら、投資仲間から「MWG、今年やばいことになってるよね」とLINEが来ました。開いてみると、9ヶ月間の業績速報。利益が前年比73%増。
思わず「マジか」と声が出ました。
テーゾイジードン投資(Thế Giới Di Động、証券コード:MWG)といえば、ベトナムを代表する小売チェーン。スマホ販売の「テーゾイジードン」、家電量販の「ディエンマイザン」、そして食品スーパー「バックホアザン」を展開する、創業者グエン・ドゥック・タイ氏の巨大帝国です。
でも正直、2023年頃は「もう成長の限界か?」なんて囁かれてた時期もあったんです。実際、店舗の閉鎖も進めてたし。
それが2025年、突然の大復活。いや、復活なんてレベルじゃない。過去最高の利益を叩き出して、さらに加速してる。
一体、何が起きてるんでしょうか?
グエン・ドゥック・タイ氏の「鉄拳パンチ」とは何か
ベトナムのビジネスニュースで「鉄拳パンチ(cú đấm thép)」という表現が使われるとき、それは「決定的な一撃」を意味します。今回MWGが繰り出している施策を、現地メディアはそう呼んでいる。
実はこれ、すごく的確な表現なんです。
2025年9ヶ月間の実績を見てみましょう。売上高は113兆6070億VND(約7200億円)で前年比14%増。これだけでも十分すごいんですが、注目すべきは利益です。税引後利益が約5000億VND(約32億円)で、前年比73%増。
つまり、売上の伸びより利益の伸びがはるかに大きい。これが「量から質への転換」の証拠です。
Agriseco証券は、2025年通期の税引後利益が6800億VND(約43億円)を超え、前年比83%増になると予測しています。この数字、実はMWGが年初に立てた計画を大きく上回っているんです。
ハノイのロンビエン地区に新しくできたディエンマイザンに先週行ったんですが、店内の雰囲気が明らかに変わってました。以前はとにかく「何でも揃えます!」って感じで商品が雑多に並んでたのが、今は厳選された商品が見やすく配置されてる。
店員さんに聞いたら「無駄なものを削って、売れる商品に集中してるんです」と。これが「質への転換」の現場の声です。
鉄拳パンチ①:既存チェーンの「質的成長戦略」
MWGの2030年に向けた戦略で最も注目すべきは、テーゾイジードン/ディエンマイザン(MW)チェーンの生まれ変わりです。
「もう飽和市場だ」という定説を打ち破り、新たな成長余地を切り開こうとしている。具体的には、2025年の利益を2030年までに2倍にする計画で、年率15%以上の成長を目指しています。
ここで重要なのが「IPO計画」です。
MWGは2030年までにMWチェーンを独立させてIPO(新規株式公開)する準備を進めています。ただし、これは資金調達が目的ではない、とグエン・ドゥック・タイ氏は明言しています。
「IPOの目的は、MWを独立して透明性の高い企業として運営し、それぞれのチェーンが最適な成長段階に合わせて動けるようにすること。今が投資家にとってのゴールデンタイムだ」
この発言、実はすごく深いんです。つまり、MWG全体としては巨大すぎて機動力が落ちる。だから各チェーンを独立させて、それぞれが最適なスピードで成長できる体制にする、ということ。
Vietcap証券のレポートも、MWGが2023-2024年の再構築期を経て、2025-2030年は「量から質への転換期」に入ったと分析しています。効率の悪い店舗や人員を整理したことで、今後の成長に向けた柔軟性が生まれた、と。
ベトナムのICT(情報通信技術)市場と家電市場は、2025-2030年に年率8.2%で成長すると予測されています。MWGにとっては追い風です。
鉄拳パンチ②:バックホアザン(BHX)の「北進戦略」
個人的に最もワクワクしているのが、食品スーパー「バックホアザン(Bách Hóa Xanh)」の拡大戦略です。
2025年9ヶ月間の売上は34兆4000億VND(約2200億円)で前年比14%増。中部地方に新規オープンした店舗のほとんどが損益分岐点を超えて黒字化しています。
9ヶ月間で520店舗を新規オープン。これ、年初の計画を大幅に上回ってるんです。
そして2026年からは「北進」を開始します。年間1000店舗ずつ出店する計画。ハノイを含む北部市場への本格進出です。
ベトナムの食品・日用品市場は600億USD(約9.6兆円)規模で、まだまだ成長余地が大きい。MWGはBHXが2028年に累積赤字を解消したらIPOする予定です。
先月、ハノイ市内のバックホアザンに初めて行ったんですが、正直驚きました。品揃えはベトナムの伝統市場に近いのに、清潔で価格も明瞭。レジも早い。「これなら近所の市場じゃなくてこっちに来るよな」と納得しました。
実際、ベトナムの消費者行動は急速に変化しています。特に若い世代は「便利さ」「スピード」「健康への配慮」を重視する。この流れが、伝統的な市場から現代的な小売チェーンへの移行を加速させています。
鉄拳パンチ③:インドネシア「EraBlue」の快進撃
MWGが東南アジア市場へ飛躍する鍵を握るのが、インドネシアの家電チェーン「EraBlue」です。
2025年9ヶ月間の売上は前年比70%増。新規に57店舗をオープンし、総店舗数は144店舗に到達しました。2025年末の目標は150店舗、2027年の目標は500店舗です。
Agriseco証券は「現在の出店ペースと効率性を考えれば、この目標は十分に達成可能」と評価しています。
インドネシア市場の魅力は、まだ市場が分散していること。家電販売の50%以上が伝統的な小規模店舗で占められています。つまり、ベトナムで磨いた「現代的小売チェーンのノウハウ」がそのまま競争優位になる。
EraBlueも将来的にIPOを目指しています。インドネシア市場での成功は、MWGが真の東南アジア企業へと進化する試金石です。
鉄拳パンチ④:Eコマース市場への再参入
MWGのもう一つの大きな動きが、Eコマース市場への本格的な再参入です。
2025年5月15日、MWGは新しいEコマースプラットフォーム「MWG Shop」を立ち上げました。「Quà Tặng VIP」アプリに統合される形です。
約6年ぶりのMWGのEコマース市場への復帰は、Shopee、Lazada、Tiki、TikTok Shopといった巨人たちが占める市場に、新たな競争をもたらすと予想されています。
MWGのEコマース責任者フィン・ヴァン・トット氏は「今がMWGにとって、透明で公正なプラットフォームを作る絶好のタイミングだ」と述べています。
彼の分析によれば、ベトナムのEコマース市場は今後5-10年間、年率2桁成長が続く見込みです。消費者の購買行動がオフラインからオンラインへと急速にシフトしているからです。
興味深いのは、ベトナムのEコマース市場が「資金を燃やして顧客とサプライヤーを獲得するフェーズ」を終えて、「利益を回収するフェーズ」に入ったという指摘です。
つまり、既存の大手プラットフォームは手数料を引き上げ始める。すると、サプライヤーは新しい販売チャネルを探し始める。そこにMWGが参入する、という戦略です。
ハノイでビジネスをしていると、実際にこの動きを感じます。「Shopeeの手数料が高すぎる」という中小企業オーナーの声を何度も聞きました。MWGのタイミングは絶妙だと思います。
鉄拳パンチ⑤:偽物撲滅キャンペーンが追い風に
最後に、MWGにとって外部環境の追い風となっているのが、ベトナム政府の「偽物撲滅キャンペーン」です。
SSI Researchのレポートによれば、最近の大規模な偽物取締りキャンペーン(乳製品、医薬品、化粧品など)が、消費者の間で製品の真正性と安全性への懸念を高めています。
この結果、消費者は「信頼できる小売チャネル」つまり、ブランド力があり、供給源が透明で、品質管理が厳格な現代的小売チェーンへと流れています。
さらにハノイ市は、2025年中に175カ所の露店・仮設市場を撤去し、2026年までに完全に解消する計画を進めています。
これ、バックホアザンの「北進戦略」にとって完璧なタイミングなんです。露店や仮設市場で買い物していた人たちが、清潔で安全な店舗を求めるようになる。
ハノイのロンビエン地区では、すでに多くの露店が撤去されました。そのすぐ近くにバックホアザンがオープンして、連日賑わっています。偶然ではないでしょう。
投資判断:MWGは今「買い」なのか?
さて、ここまで読んで「じゃあMWG株は買いなのか?」と思った方も多いでしょう。
僕の個人的な見解を率直に言います。MWGは今、非常に魅力的な投資対象だと考えています。
理由は3つ。
第一に、2023-2024年の再構築期を経て、収益性が劇的に改善していること。売上成長率より利益成長率が高いというのは、ビジネスモデルが効率化されている証拠です。
第二に、複数の成長ドライバーを持っていること。既存チェーンの質的成長、BHXの拡大、インドネシア市場、Eコマース。どれか一つがつまずいても、他がカバーできる。
第三に、外部環境が味方していること。政府の偽物撲滅、露店撤去、消費者行動の変化。すべてがMWGに有利に働いています。
ただし、リスクもあります。
最大のリスクは、急速な拡大に伴う管理コストの増大です。特にBHXの北進では、年間1000店舗という出店ペースを維持できるのか、品質管理は保てるのか、という懸念があります。
また、インドネシアのEraBlueはまだ黒字化していません。海外展開のリスクは常に存在します。
Eコマース市場も、既存の巨人たちとの競争は厳しいでしょう。MWGが本当に差別化できるのか、まだ証明されていません。
それでも、僕はMWGの成長ストーリーに賭ける価値があると思っています。
現在の株価水準(2025年11月時点)は、将来の成長性を考えればまだ割安だと感じます。特に、2030年までのロードマップが明確で、各チェーンのIPO計画まで示されている企業は珍しい。
グエン・ドゥック・タイ氏の「鉄拳パンチ」は、まだ始まったばかりです。
いかがでしたでしょうか。今回のMWGの成長戦略について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
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