こんにちは、ベトナム経済&株式投資ニュース解説のベトテク太郎です。
今回は、ベトナム経済の現状から今後の展望まで、2025年最新データをもとに徹底解説します。私はハノイに12年間住んでおり、現地でベトナム経済の変化を肌で感じてきました。「ベトナム経済は本当に成長しているのか」「今後も発展し続けるのか」「どんなリスクがあるのか」といった疑問に、具体的なデータと現地視点でお答えします。
ベトナム経済の現状【2025年最新データ】
7.09%の高成長を達成した2024年
2024年のベトナム経済は、GDP成長率「7.09%」という驚異的な数字を記録しました。これは政府目標の6.0〜6.5%を大きく上回る達成です。ベトナム統計総局が2025年1月6日に発表したデータによると、四半期ごとに成長が加速しており、第4四半期には「7.55%」と2年以上で最速の成長を記録しています。
ハノイのタイ湖エリアを歩いていると、新しい高層マンションやオフィスビルの建設ラッシュが目に入ります。2023年の成長率5.05%から大きく回復したこの数字は、ベトナム経済の底力を示すものです。1人当たりGDPも4,536ドルに達し、前年から219ドル増加しました。
四半期別の成長率推移を見ると、経済回復の勢いがよく分かります。第1四半期の5.66%から始まり、第2四半期6.93%、第3四半期7.40%、そして第4四半期7.55%と、着実に加速しています。この成長は2018年、2019年、2022年に次ぐ高水準で、ベトナム経済の回復力の強さを物語っています。
インフレ率と失業率は安定推移
2024年のインフレ率(CPI)は年間で「3.63%」と、国会目標の4.0〜4.5%以内に収まりました。2023年の3.2%からやや上昇しましたが、アジア新興国としては非常に安定した水準です。ハノイの市場で買い物をしていても、物価の急激な上昇は感じません。むしろ、賃金上昇のペースの方が速いと感じることが多いです。
失業率は2024年第3四半期時点で「2.24%」と低水準を維持しています。労働力人口は5,300万人に達し、労働者の平均月収は760万VND(約4.8万円)で、前年同期比で7.2%増加しました。この賃金上昇は、ベトナムの中間層拡大を示す重要な指標です。
政策金利については、ベトナム中央銀行は主要政策金利を据え置いています。ディスカウントレート(公定歩合)は年3.0%、リファイナンスレートは年4.5%で、2023年の引き下げ後、安定した金融政策を継続しています。
産業別に見る成長の内訳
2024年の産業構造を見ると、「サービス業」が42.3〜49%、「鉱工業・建設業」が37.6〜45%、「農林水産業」が5〜11.9%という構成になっています。第4四半期の産業別成長率では、鉱工業・建設業が8.35%と最も高く、サービス業が8.21%で続いています。
ハノイのロッテセンター周辺では、IT企業やコンサルティング会社が次々と入居しており、サービス業の成長を実感できます。一方、タンロン工業団地では、日本企業や韓国企業の工場が増設を続けており、製造業の勢いも衰えていません。
農林水産業は2024年に台風11号などの自然災害の影響を受けながらも、通年で3.27%の成長を記録しました。ベトナムの農業は天候に左右されやすいものの、技術革新により生産性が向上しています。
外国直接投資(FDI)は過去最高水準
2024年のFDI実績は、認可額が「336億8,800万ドル」(前年比+10.0%)、実行額が「253.5億ドル」(前年比+8.9%)と、実行額は過去5年で最高を記録しました。認可件数も4,914件と前年比4.6%増加しており、外国企業のベトナムへの関心の高さが分かります。
投資分野では、製造業・加工業が最大のシェアを占め、次いで不動産業、半導体・AI関連、再生可能エネルギーと続きます。投資国ではシンガポール、韓国、日本、中国、台湾が上位を占めています。
特に注目すべきは、「チャイナプラスワン」戦略による製造業投資の堅調さです。米中貿易摩擦を背景に、多くの企業が中国からベトナムへ生産拠点を移転しています。また、NVIDIAやIntelといった世界的な半導体企業がベトナムへの投資を検討しており、高付加価値産業への転換が進んでいます。
貿易黒字は過去最高の248億ドル
2024年の貿易実績は驚異的でした。輸出総額は約「4,055億ドル」と過去最高を記録し、前年比で15.4%増加しました。輸入総額も約3,800億ドルと前年比15%増加しましたが、貿易黒字は約「247.7億ドル」と過去最高水準に達しています。
主要輸出品目は、電子機器・部品(携帯電話、コンピューター等)が最大で、次いで繊維・衣料品、履物、機械設備、木材・木製品と続きます。1億ドル以上の輸出品目は47品目あり、輸出総額の93.8%を占めています。
輸入品目では、機械設備・部品、電子部品・半導体、コンピューター・電子製品が上位を占めています。これらの輸入は、ベトナム国内での製造業のための中間財であり、最終製品として輸出されることで貿易黒字を生み出しています。
ハノイのノイバイ国際空港では、貨物便が増便され続けており、貿易の活況を肌で感じます。空港拡張工事も進んでおり、今後のさらなる貿易拡大に備えています。
ベトナム経済成長の5つの理由
理由1:「チャイナプラスワン」戦略の恩恵
ベトナム経済成長の最大の要因は、「チャイナプラスワン」戦略による投資流入です。米中貿易摩擦を背景に、多くの企業が中国からベトナムへ生産拠点を移転しています。日本、韓国、台湾、欧米企業の生産拠点がベトナムに集積しており、サプライチェーン再編の最大の受け皿となっています。
具体例として、パナソニックは2025年までにベトナムでのエアコン生産を300万台体制に拡大する計画です。サムスン、Intel、Canonといった大手電子機器メーカーもベトナムに大規模な生産拠点を構えています。繊維・履物産業も集積が進んでおり、世界的なブランドの多くがベトナムで生産しています。
ベトナムの競争優位性は、中国との地理的近接性、労働コストの相対的優位性、政治的安定性、そしてTPPやRCEPといった主要貿易協定への参加にあります。これらの要因が組み合わさり、ベトナムは「アジアの工場」としての地位を確立しつつあります。
理由2:若年労働力と人口ボーナス
ベトナムの人口構造は経済成長に非常に有利です。総人口は約1億200万人で、平均年齢は約32歳と若く、15-64歳の労働年齢人口比率は約67-68%に達しています。国連人口基金(UNFPA)の予測では、人口ボーナス期は「2040年まで継続」するとされており、今後15年間は人口動態面での優位性が続きます。
労働力人口は5,300万人で、毎年約50万人が新たに労働市場に参入しています。識字率は95%以上と高く、教育水準も向上しています。若年層を中心に英語力も向上しており、グローバル企業にとって魅力的な労働市場となっています。
ハノイの街を歩いていると、若者のエネルギーを強く感じます。カフェではノートパソコンを開いて仕事をする若者が多く、起業家精神も旺盛です。この若くて勤勉な労働力が、ベトナム経済の原動力となっています。
理由3:政府の積極的な経済政策
ベトナム政府は経済成長を最優先課題とし、積極的な政策を展開しています。2025年のGDP成長率目標は「8%以上」、2026年は「10%以上」、2026-2030年平均でも「10%以上」という野心的な目標を掲げています。
特に注目すべきは、民間経済活性化政策です。2025年以降、民間企業の育成・支援が重点政策に格上げされ、規制緩和やビジネス環境改善が進められています。大企業育成とスタートアップ支援の両面で、民間経済の活性化を図っています。
半導体・AI産業育成にも力を入れており、税制優遇(法人税減免)、土地使用料免除、R&D費用の最大50%補助、人材育成支援プログラムなど、手厚い優遇策を提供しています。これらの政策により、NVIDIAなどの世界的企業がベトナムへの投資を検討しています。
金融政策では、インフレ抑制と経済成長のバランスを取りながら、適切な金融緩和を維持しています。公共投資の拡大やインフラ整備への注力も、経済成長を支える重要な要素です。
理由4:地理的優位性と充実したFTAネットワーク
ベトナムはアジアの中心に位置し、中国との国境接続、南シナ海への長い海岸線、ASEAN主要国へのアクセスという地理的優位性を持っています。ハイフォン港、ホーチミン港などの主要港湾は、物流ハブとしての機能を果たしており、国際空港の拡充も進んでいます。
さらに、ベトナムは充実したFTAネットワークを構築しています。CPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)、RCEP(地域的な包括的経済連携)、EVFTA(EU・ベトナムFTA)、日ベトナムEPAなど、主要な貿易協定に参加しています。
外交面では、米国との関係強化、中国との経済関係維持、日本との戦略的パートナーシップ、EU・韓国等との協力と、バランスの取れた外交を展開しています。2024年の米中貿易摩擦の中で、ベトナムは「中立的な製造拠点」として注目を集めました。
理由5:デジタル経済の急成長
ベトナムのデジタル経済は急速に成長しています。2024年末時点で約「390億ドル」規模に達し、2025年も390億ドル以上の成長が見込まれています。主要分野であるEコマース、デジタル金融、オンラインメディア、配車サービス、デジタル広告のすべてが2桁成長を記録しています。
政府は2030年までにデジタル経済をGDP比「約30%」にする目標を掲げており、デジタルインフラ整備やスタートアップ支援を積極的に推進しています。若年人口のデジタルネイティブ層拡大、モバイル決済の急速な普及、外資IT企業の投資増加が、デジタル経済成長の原動力となっています。
ハノイでは、Grab(配車サービス)やShopee(Eコマース)といったデジタルサービスが日常生活に完全に浸透しています。現金を使わずにすべての支払いをモバイル決済で済ませる若者も増えており、デジタル経済の成長を実感します。
ベトナム経済成長率の国際ランキング
ASEAN最高の成長率を達成
2024年のASEAN主要国のGDP成長率を比較すると、ベトナムは「7.09%」でトップの座を獲得しました。2位のカンボジア6.02%、3位のフィリピン5.69%、4位のマレーシア5.11%、5位のインドネシア5.03%を大きく引き離しています。シンガポール4.0%、タイ2.5%と比較しても、ベトナムの成長の勢いは際立っています。
特にタイとの比較は興味深いです。タイは一人当たりGDPでベトナムを上回る先進国ですが、成長率では大きく水をあけられています。政治不安や高齢化の影響を受けるタイに対し、ベトナムは若年労働力と政治的安定性を武器に、高成長を維持しています。
アジア新興国でもトップクラス
アジア新興国全体で見ても、ベトナムの成長率はトップクラスです。インドが約7-8%の成長率で首位争いをしていますが、ベトナムの7.09%はそれに匹敵する水準です。カンボジア6.02%、フィリピン5.69%、バングラデシュ約5-6%、インドネシア5.03%、中国約5.0%と比較しても、ベトナムの成長の強さが分かります。
インドとベトナムを比較すると、市場規模ではインド(人口14億人)が圧倒的ですが、政治的安定性、インフラ整備度、製造業基盤ではベトナムに優位性があります。両国とも今後の成長が期待される市場ですが、ベトナムはより予測可能で安定した投資先と言えます。
世界でも有数の高成長国
世界全体で見ると、2024年の世界平均GDP成長率は約2.9%(IMF推計)、先進国平均は約1.5-2.0%、新興国・発展途上国平均は約4.0-4.5%でした。ベトナムの7.09%は世界的に見ても非常に高い成長率で、世界ランキングでは約12-15位前後と推定されます。
アフリカの一部資源国や中東の産油国と並ぶ高成長を、製造業とサービス業を中心とした持続可能な経済構造で実現していることは、ベトナム経済の健全性を示しています。資源依存ではなく、人的資源と製造業の競争力による成長は、長期的な持続可能性が高いと評価できます。
過去10年間の安定した成長軌道
ベトナムの過去10年間(2014-2024年)のGDP成長率を見ると、2020-2021年のCOVID-19影響年(2.9%、2.6%)を除き、安定的に6-8%台の高成長を維持してきました。2022年には8.0%という高成長を記録し、2023年は5.05%に落ち込んだものの、2024年には7.09%と力強く回復しています。
10年平均は約6.1%、COVID-19影響年を除くと約6.8%という驚異的な数字です。これは日本の高度経済成長期に匹敵する成長率であり、ベトナムが「アジアの新興龍」として台頭していることを示しています。
ハノイに12年間住んでいる私自身、この成長を肌で感じてきました。タイ湖周辺の開発、新しい地下鉄の開通、高層ビルの増加、中間層の拡大など、ベトナムの変化は目を見張るものがあります。
ベトナム経済の今後の展望【2025-2030年予測】
国際機関は6-7%台の成長を予測
2025年のベトナム経済成長率について、国際機関は概ね6-7%台の成長を予測しています。世界銀行は6.6%、アジア開発銀行(ADB)は6.7%(2025年10月に6.6%から上方修正)、IMFは5.2〜6.1%、UOB銀行は7.7%(上方修正)と予測しています。
一方、ベトナム政府は2025年に8.0〜8.5%以上、2026-2030年は年平均10%以上という野心的な目標を掲げています。政府目標と国際機関予測には大きな乖離がありますが、これは政府の強い経済成長へのコミットメントを示しています。
2026年以降については、ADBが6.0%、世界銀行が6.1%と予測しており、中長期的に6%台の安定成長を見込んでいます。ベトナムが目標とする10%以上の成長を達成するには、相当な政策努力と構造改革が必要です。
産業構造の高度化が進む
今後のベトナム経済では、産業構造の転換が重要なテーマとなります。製造業では、労働集約型から技術集約型へのシフトが進み、半導体、AI、電子機器の高付加価値化、サプライチェーンの上流化が期待されています。
サービス業では、デジタル経済の急成長、観光業の回復・拡大、金融サービスの発展が見込まれています。政府が目標とする2030年のデジタル経済GDP比率「約30%」が実現すれば、ベトナム経済の構造は大きく変化します。
農業でも近代化が進んでおり、スマート農業の導入、高付加価値農産品へのシフト、輸出競争力の強化が進められています。ハノイ郊外の農村部では、日本の農業技術を導入した高付加価値農業が始まっており、今後の展開が注目されます。
人口ボーナスは2040年まで継続
ベトナムの人口構造は、経済成長に引き続き有利に働きます。人口ボーナス期は2040年まで継続する見込みで、豊富で若い労働力、労働コストの相対的優位性が維持されます。毎年約50万人が新規に労働市場に参入し、経済成長を支える人的資源を提供し続けます。
ただし、2040年以降は高齢化が加速し、少子化も進行すると予測されています。この「2040年問題」に向けて、今のうちに高付加価値産業への転換、労働生産性の向上、社会保障制度の整備を進める必要があります。
労働生産性については、2024年名目価格で2億2,190万VND(約9,182ドル)と、まだ先進国水準には遠く及びません。今後、教育への投資、技術革新、デジタル化により、労働生産性を大幅に向上させることが成長の鍵となります。
FTSE Russell新興国市場格上げの影響
2025年10月7日、FTSE Russellがベトナム株式市場を「フロンティア市場」から「セカンダリー新興市場(Secondary Emerging Market)」へ格上げすることを発表しました。実施時期は2026年9月21日で、28銘柄が対象予定リストに入っています。
この格上げにより、FTSE Russellは60億ドル、VinaCapitalは50-60億ドルの資金流入を見込んでいます。株式市場の流動性向上、外国人投資家の増加、企業のガバナンス改善加速が期待されており、ベトナム株式市場にとって歴史的な転換点となります。
ただし、MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)による格上げはまだ決定しておらず、今後の市場改革の進展が注目されます。取引システムの近代化やプレフィンディング制度の導入など、格上げの前提条件は整いつつあります。
ベトナム経済が直面する課題と悪化リスク
不動産市場の低迷と銀行の不良債権問題
ベトナム経済の最大のリスクは、不動産市場の低迷と、それに伴う銀行セクターの不良債権問題です。2022年後半から2024年にかけて、大手不動産デベロッパーの社債デフォルト問題が発生し、不動産市場は深刻な低迷に直面しました。
銀行の不良債権比率は、2022年の1.9%から2023年には4.6%、2024年5月には4.9%へと急増しました。再編ローンやVAMC(ベトナム資産管理会社)移管債権を含めると、実質的な不良債権比率は6.9〜7.9%に達しています。2024年上半期には、主要27行中25行で不良債権が増加しており、信用の質が全体的に低下しています。
2024年の状況を見ると、第1四半期以降、不動産取引量が10-50%増加するなど回復の兆しも見られます。しかし、本格的な回復には時間が必要で、過去の回復サイクル(2-3年)を考慮すると、2024年後半から2025年にかけて着実な立ち直りが期待されます。
ハノイの不動産市場を見ていても、新規プロジェクトの販売は慎重に進められており、デベロッパーの資金繰りへの警戒感が強いことが分かります。銀行の貸出態度も慎重化しており、特に中小企業への融資が抑制されています。
電力不足問題が2026-2030年に深刻化の恐れ
ベトナム経済のもう一つの大きな課題は、電力供給の不足です。2024年は十分な雨量により水力発電が稼働し、深刻な電力不足は回避できました。発電量は前年比9.4%増加しましたが、構造的な課題は継続しています。
2025年以降、特に2026-2030年にかけて、電力容量不足のリスクが高まっています。北部の電力使用量は前年比11.3%増加すると予測されており、電源開発の停滞が懸念されています。ハノイでも、夏場のピーク時には計画停電の可能性が議論されており、企業の生産活動への影響が心配されています。
電源構成を見ると、石炭火力が43〜48.7%(ピーク時)と高い依存度を示しています。水力は28.7%ですが天候に左右され、再生可能エネルギーは26%(太陽光19.9%、風力6.1%)にとどまっています。送電網整備の遅れや蓄電技術の不足も課題です。
政府は2030年までに再生可能エネルギー比率を30.9〜39.2%、2050年には67.5〜71.5%にする目標を掲げていますが、送電網整備、技術・資金不足、政策実行力など、多くの課題が残っています。
インフラ整備の遅れ
電力以外のインフラも課題が多くあります。ハノイやホーチミンといった主要都市では、道路渋滞が深刻化しています。タイ湖周辺でも、朝夕のラッシュ時には車が動かなくなることがあり、物流コストの増加につながっています。
鉄道網は未整備で、都市間の移動は主に高速道路に依存しています。港湾のキャパシティも限界に近づいており、貨物の滞留が発生することがあります。地方と都市の通信インフラ格差、5G展開の遅れ、上下水道整備の不足、工業用水の供給問題なども、経済成長の制約要因となっています。
環境問題と持続可能性への対応
急速な経済成長に伴い、環境問題も深刻化しています。都市部のPM2.5濃度上昇、工業排水の処理不足、農業用農薬・化学肥料による水質汚染など、環境への負荷が増大しています。
気候変動への脆弱性も大きな課題です。メコンデルタは海面上昇のリスクに直面しており、2024年9月の台風11号のような自然災害も頻発しています。干ばつリスクもあり、農業生産への影響が懸念されています。
政府は再生可能エネルギー目標や国際支援(Just Energy Transition Partnership等)を通じて対応を進めていますが、技術・資金不足、政策実行力など、課題は山積しています。
なぜベトナムは発展しないのか?構造的問題の分析
中所得国の罠のリスク
ベトナム経済が直面する最大の長期的リスクは、「中所得国の罠」です。これは、生産年齢人口の増加と低賃金による成長が限界に達し、イノベーションや生産性向上による成長への転換に失敗して成長が停滞する現象を指します。
ベトナムは現在、労働集約型製造業を中心とした成長モデルで成功していますが、今後は技術集約型・高付加価値産業へのシフトが必要です。2040年以降、人口ボーナス期が終了し、高齢化が加速すると、現在の成長モデルは維持できなくなります。
賃金上昇圧力も強まっており、2025年の昇給率予測は7.7%とASEANトップです。コスト優位性が低下すると、カンボジアやラオスといった他のASEAN諸国との競争で不利になる可能性があります。
中所得国の罠を回避するには、イノベーション能力の強化、教育・人材育成への投資、産業構造の高度化加速、生産性向上が不可欠です。ベトナムがこの転換に成功できるかどうかが、今後20年の成長を左右します。
教育水準と技術革新の課題
ベトナムの識字率は95%以上と高く、基礎教育は充実していますが、高度人材の育成には課題があります。STEM教育の不足、職業訓練の質の問題、地域間・民族間の教育格差などが指摘されています。
高等教育では、国際競争力のある大学が不足しており、研究開発環境も未整備です。産学連携も弱く、大学の研究成果が産業に活用されるケースは限られています。GDP比のR&D支出も低く、基礎研究は特に弱い分野です。
技術革新(イノベーション)の面では、外資企業への依存が高く、自前の技術開発力が不足しています。知的財産権保護の課題もあり、模倣品問題が後を絶ちません。起業エコシステムも発展途上で、スタートアップ支援、リスクマネー、失敗への寛容度など、改善すべき点が多くあります。
官僚主義と汚職の問題
ベトナムのビジネス環境において、官僚主義と汚職は依然として大きな障害となっています。行政手続きの煩雑さ、投資許可の遅延、規制の不透明性、各省庁間の調整不足などが、外国企業の投資判断に影響を与えています。
意思決定の遅さも問題で、大型プロジェクトの承認が遅延し、インフラ整備が停滞するケースが散見されます。具体例として、IntelやLG化学といった大手企業の大型投資が、優遇措置の不備により他国に流れたケースもあります。
政府は「燃える炉」反汚職キャンペーンを展開し、トップダウンで汚職摘発を強化しています。高官の逮捕・処罰など一定の成果を上げていますが、副作用として官僚の萎縮や決定回避、プロジェクト承認の遅延なども発生しています。
透明性の不足、説明責任の弱さ、法の支配の不完全性など、構造的な課題は残っており、ビジネス環境の不確実性や経済効率性の低下につながっています。
周辺国との競争激化
ベトナムはASEAN内で最高の成長率を達成していますが、周辺国との競争は激化しています。タイは産業集積、インフラ、技術力で優位性を持ち、インドネシアは2.7億人の巨大市場と資源を擁しています。フィリピンは英語力とBPO産業、マレーシアは高度人材と技術力で競争しています。
特に注目すべきは、インドとの競争です。インドは14億人の巨大市場とIT人材の豊富さで圧倒的な優位性を持っています。ベトナムの強みは政治安定、インフラ整備度、製造業基盤ですが、市場規模や人材の質ではインドに及びません。
ベトナムが競争力を維持するには、高品質製造、迅速な対応力、親日・親米外交といった差別化戦略が重要です。地理的優位性、FTAネットワーク、政治的安定性という他国にない強みを活かし、独自のポジションを確立する必要があります。
所得格差と地域格差の拡大
ベトナムでは、経済成長に伴い所得格差と地域格差が拡大しています。2024年のデータでは、都市部の平均月収は約708万VND(東南部)ですが、農村部は都市部の約60%にとどまっています。外資企業と国内企業、製造業と農業、正規雇用と非正規雇用の間でも大きな格差があります。
地域格差も深刻で、ホーチミン周辺の東南部が最高所得708万VND、ハノイ周辺の紅河デルタが高所得である一方、中部高原・山岳部は低所得にとどまっています。少数民族地域では、全体の貧困率が5%に対し、少数民族の貧困率は27%、一部地域では50%が貧困という状況です。
インフラ格差も大きく、都市部では道路、電力、通信が整備されていますが、農村部・山岳部ではインフラが未整備です。この格差は、都市への人口集中、農村の過疎化、社会的不満の蓄積、教育機会の不平等といった社会問題を引き起こしています。
ハノイに住んでいると、この格差を実感する機会が多くあります。タイ湖周辺の高級住宅街と、郊外の農村部では、まるで別の国のような格差があります。この格差を是正しない限り、持続可能な経済成長は実現できません。
最新ベトナム経済ニュース【2025年総まとめ】
2025年以降の高成長目標設定
2025年11月13日、ベトナム国会は野心的な経済成長目標を決議しました。2025年のGDP成長率目標は「8%以上」、2026年は「10%以上」、2026-2030年平均でも「10%以上」という数字です。さらに、2030年までに1人当たりGDPを8,500ドルにする目標も掲げています。
これらの目標は、世界銀行やADBの予測(6-7%台)と大きな乖離がありますが、ベトナム政府の強い経済成長へのコミットメントを示しています。目標達成には、民間経済の活性化、産業構造の高度化、インフラ整備の加速など、多方面での政策努力が必要です。
民間経済活性化が重点政策に
2025年9月以降、ベトナム政府は民間企業育成を重点政策に格上げしました。規制緩和、投資環境改善、大企業育成、スタートアップ支援など、民間経済の活性化に向けた包括的な政策パッケージが発表されています。
これまでベトナム経済は国有企業と外資企業が中心でしたが、今後は民間ベトナム企業の育成に力を入れることで、経済の持続可能性を高める狙いがあります。中小企業向けの金融支援、経営支援、技術移転プログラムなども拡充される予定です。
半導体・AI産業への大型投資
2025年2月17日、ベトナム政府は半導体・AI産業への優遇策を発表しました。税制優遇(法人税減免)、土地使用料免除、R&D費用の最大50%補助、人材育成支援プログラムなど、手厚い支援策が用意されています。
この政策を受けて、NVIDIA(米国)は2024年末にAI・半導体分野での協力合意を結び、研究開発拠点の設立を検討しています。その他の半導体企業も複数の大型プロジェクトを準備しており、2024年9月には3件の大型資本調整(76.4億ドル超)が行われました。
AI企業への投資も急増しており、2024年のAI企業投資額は8,000万ドルと前年比8倍に達しています。ベトナムが「アジアの半導体ハブ」「AIイノベーションセンター」として成長する可能性が高まっています。
FTSE Russell新興国市場格上げ決定
2025年10月7日、FTSE Russellがベトナム株式市場を「フロンティア市場」から「セカンダリー新興市場」へ格上げすることを発表しました。実施時期は2026年9月21日で、28銘柄が対象予定リストに入っています。
この発表を受けて、ベトナム株式市場は急騰し、過去最高値を更新しました。FTSE Russellは60億ドル、VinaCapitalは50-60億ドルの資金流入を見込んでおり、株式市場の流動性向上、外国人投資家の増加、企業のガバナンス改善加速が期待されています。
格上げの前提条件として、取引システムの近代化は2024年11月に実現し、プレフィンディング制度も導入されました。ただし、MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)による格上げはまだ決定しておらず、今後の市場改革の進展が注目されます。
ベトナム経済の現状と課題【投資家視点のまとめ】
投資機会としてのベトナム経済
ベトナム経済は、高成長市場への参入機会を提供しています。2024年のGDP成長率7.09%、ASEAN最高の成長率、若年消費市場の拡大、製造拠点としての魅力継続など、投資家にとって魅力的な要素が揃っています。
デジタル経済の急成長も見逃せません。2030年までにGDP比30%を目指すデジタル経済は、Eコマース、フィンテック、配車サービスなど、多様な投資機会を提供しています。FTSE Russell新興国市場格上げによる株式市場の発展も、投資家にとって大きなメリットです。
ハノイに12年間住んでいる私の実感として、ベトナム経済の成長ポテンシャルは非常に高いと感じています。中間層の拡大、消費市場の成熟、インフラ整備の進展など、長期的な成長トレンドは明確です。
投資家が注意すべきリスク
一方で、投資家が注意すべきリスクも多くあります。政策の不透明性や官僚主義は、ビジネス環境の不確実性を生み出しています。インフラ制約、特に2026-2030年の電力不足リスクは、企業の生産活動に直接的な影響を与える可能性があります。
銀行セクターの不良債権問題は、金融システムの安定性への懸念を生んでいます。不良債権比率の上昇が続けば、信用収縮により経済成長が鈍化する可能性があります。人材確保の競争も激化しており、優秀な人材の獲得コストは上昇しています。
長期的には、中所得国の罠を回避できるかどうかが、ベトナム経済の持続可能性を左右します。2040年以降の人口ボーナス終了に向けて、今のうちに産業構造の高度化、技術革新能力の獲得、労働生産性の向上を実現できるかが鍵となります。
ベトナム株投資でFIREを目指すには
私は総資産9,153万円のうち、約50%をベトナム株に投資しています。ベトナム株投資でFIREを目指すには、長期的な視点と分散投資が重要です。成長性の高い個別銘柄と、市場全体の成長を捉えるETFを組み合わせることで、リスクとリターンのバランスを取っています。
FTSE Russell新興国市場格上げを控えた今は、ベトナム株投資の好機と言えます。2026年9月の格上げ実施に向けて、50-60億ドルの資金流入が見込まれており、株価の上昇が期待できます。ただし、短期的な価格変動には注意が必要で、長期保有を前提とした投資戦略が望ましいです。
まとめ:ベトナム経済への投資判断
ベトナム経済は、7.09%の高成長、若年労働力、「チャイナプラスワン」による投資流入、充実したFTAネットワーク、デジタル経済の急成長など、多くの強みを持っています。ASEAN最高の成長率を達成し、アジア新興国でもトップクラスの経済パフォーマンスを示しています。
一方で、不動産市場の低迷と銀行の不良債権問題、電力不足リスク、中所得国の罠、教育・技術革新の課題、官僚主義と汚職、所得・地域格差など、多くの課題も抱えています。これらの課題を克服できるかどうかが、今後20年のベトナム経済を左右します。
FTSE Russell新興国市場格上げは、ベトナム株式市場にとって歴史的な転換点です。2026年9月の実施に向けて、ベトナム株への投資機会は拡大しています。ただし、投資判断は慎重に行い、リスクとリターンのバランスを十分に検討する必要があります。
ハノイに12年間住み、ベトナム経済を間近で見てきた私の結論として、ベトナムは長期的な投資先として非常に魅力的な市場です。課題は多くありますが、それを上回る成長ポテンシャルがあります。特に、2040年までの人口ボーナス期を活かした成長は、投資家に大きなリターンをもたらす可能性があります。
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