こんにちは、ベトナム経済&株式投資ニュース解説のベトテク太郎です。
2025年12月16日、ベトナムの経済専門家たちが「2026-2030年にGDP成長率10%以上を達成するための戦略」について重要な提言を発表しました。ハノイに住んで12年になる私にとって、この議論は単なる経済数字の話ではありません。毎日の生活の中で感じるベトナム経済の「伸びしろ」と「課題」が、まさにこのレポートに凝縮されているからです。
今回は、この重要なニュースを現地在住者の視点から深く掘り下げ、ベトナム株投資家が知っておくべきポイントを解説します。
ニュースの要点:ベトナム経済の「次の成長ステージ」への挑戦
このニュースの核心は、ベトナムが「量的成長」から「質的成長」への大転換を迫られているという点です。
発表されたレポートによると、1986年から2025年までのベトナムの平均GDP成長率は約6.51%です。これは決して低い数字ではありませんが、韓国が1960-1990年に達成した9.58%、中国が1978-2018年に記録した10.02%、日本が1947-1977年に実現した8.49%と比較すると、まだ「経済の奇跡」と呼ばれるレベルには達していません。
2026-2030年に「GDP成長率10%以上」を達成するには、何が必要なのか。レポートは明確に答えています。
「全要素生産性(TFP)の貢献を現在の46.4%から50%以上に引き上げること」そして「公共投資の効率を劇的に改善すること」の2つです。
全要素生産性(TFP)とは何か:ベトナム経済の「本当の実力」を測る指標
TFPという言葉は少し専門的に聞こえるかもしれませんが、簡単に言えば「単に資本や労働力を増やすだけでなく、技術革新や経営改善によって生産性を高める力」です。
ベトナム経済研究センター(CIEM)の元所長であるレ・スアン・バー准教授によれば、ベトナムのTFP貢献度は2024年で46.4%に達する見込みです。これは改善傾向にありますが、二桁成長を実現した国々はいずれもTFP貢献度が50%を超えていました。
私がハノイで働いていて実感するのは、ベトナムにはまだ「非効率な仕組み」がたくさん残っているということです。例えば、行政手続きの煩雑さ、物流インフラの不足、企業の経営管理レベルのばらつきなど、改善の余地は山ほどあります。
逆に言えば、これらを改善するだけで、ベトナム経済は大きく飛躍する可能性を秘めているということです。
公共投資の非効率性:ICOR 17.8倍という衝撃的な数字
このニュースで最も衝撃的だったのは、ベトナムの「ICOR(限界資本係数)」の数字です。
ICORとは、「GDPを1単位増やすために必要な投資額」を示す指標で、数字が小さいほど投資効率が高いことを意味します。レポートによると、ベトナム国営部門のICORは2016-2021年で17.8倍に達しています。
これがどれだけ非効率かというと、韓国や日本の経済成長期のICORは約3.2倍だったのです。つまり、ベトナムは同じGDP成長を達成するために、韓国や日本の約5倍以上の投資が必要になっているということです。
BIDVのチーフエコノミスト、カン・ヴァン・ルック博士は「2026-2030年に10%成長を達成するには、ICORを4倍程度に抑える必要がある」と指摘しています。
ハノイに住んでいると、この非効率性を日常的に目にします。何年も放置されている公共工事、使われていない公共施設、計画倒れに終わったインフラプロジェクト。これらはすべて「投資したが成果に結びついていない」典型例です。
公共投資の配分見直し:インフラ偏重から人材・技術投資へ
レポートが提案する最も重要な改革は、公共投資の配分を大きく変えることです。
現在、ベトナムの公共投資の約80%がインフラ(道路、橋、港湾など)に向けられています。一方で、科学技術への投資はわずか0.45%、教育が10.3%、医療が4.2%にすぎません。
カン・ヴァン・ルック博士の提案は明確です。
「インフラ投資を80%から50-55%に減らし、教育投資を20%、医療を10-12%、科学技術を3-5%に増やすべきだ」
これは単なる数字の変更ではありません。ベトナム経済の成長エンジンを「コンクリート」から「人材」へシフトさせるという、根本的な戦略転換を意味しています。
私がハノイで実感するのは、ベトナムの若い世代の「学ぶ意欲」と「成長したい」という強い願望です。街のカフェには、プログラミングを学ぶ学生、英語の勉強会をする若者、起業プランを練るグループがあふれています。
この人材のポテンシャルに、政府が本格的に投資すれば、ベトナムは韓国や台湾のような「人材立国」になれる可能性があります。
制度改革の遅れ:「点数」で見える課題
レポートには、もう一つ重要な指摘があります。それは「Nghị quyết số 31/2021/QH15(経済再構築に関する2021年国会決議第31号)」の実施状況についてです。
この決議では27の目標指標が設定されていましたが、2025年末時点で「達成可能」なのは23指標中わずか10指標。9指標は「達成困難」、4指標は「達成不可能」という厳しい評価でした。
特に深刻なのは、「労働生産性の向上」と「科学技術投資の増加」という2つの質的指標が達成できなかったことです。
その根本原因として指摘されているのが「制度・政策整備の遅れ」と「行政手続きの煩雑さ」です。
ハノイで事業をしていると、この「制度の壁」を何度も経験します。法律は作られても細則がなかなか出ない、担当部署によって解釈が異なる、手続きに予想外の時間がかかる。こうした問題が、民間企業の意欲を削ぎ、投資効率を下げているのです。
ベトナム株投資家への示唆:「質への転換」の恩恵を受ける企業を見極めよ
では、この経済構造改革は、ベトナム株投資家にとってどのような意味を持つのでしょうか。
私は3つの重要な投資テーマが浮かび上がると考えています。
第一に「教育・人材育成」関連企業です。政府が教育投資を現在の10.3%から20%に倍増させるとすれば、FPTコーポレーション(FPT)のような教育事業を持つIT企業や、職業訓練を手掛ける企業が恩恵を受けます。FPTは現在、国内28省・市で学校を運営し、IT人材育成に注力しています。
第二に「科学技術・イノベーション」企業です。科学技術投資が0.45%から3-5%に増えれば、研究開発型企業への政府支援が拡大します。FPT、CMCグループ(CMG)などのIT企業、さらにはバイオテクノロジーや医療技術企業も注目です。
第三に「効率化・生産性向上」をサポートする企業です。ICORを17.8倍から4倍に改善するには、建設・製造・物流などあらゆる分野で効率化が必要です。デジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するIT企業、物流効率化を実現する企業、省エネ技術を提供する企業などが有望です。
逆に、注意すべきは「従来型のインフラ建設」一本足企業です。公共投資の配分が変われば、道路や橋だけを作る企業は成長余地が限られます。
現地で感じる「変化の胎動」
ハノイの街を歩いていると、この「質への転換」の兆しが随所に見られます。
ロッテセンター近くのカフェでは、AI開発について熱く語るエンジニアたち。タイ湖エリアのコワーキングスペースでは、スタートアップが新しいビジネスモデルを議論しています。書店では、プログラミングやデータサイエンスの本が平積みされ、若者たちが真剣に読んでいます。
「もっと学びたい」「もっと成長したい」というエネルギーが、この国には満ちあふれています。
政府がこのエネルギーに本気で投資すれば、ベトナムは間違いなく「次のステージ」に進めるでしょう。そして、その恩恵を最も受けるのは、変化の最前線にいる企業、そしてそうした企業に投資する投資家です。
リスク要因:改革の実行力が問われる
もちろん、楽観的になりすぎるのは禁物です。
今回のレポートが指摘したように、ベトナムは過去にも多くの改革目標を掲げながら、その多くを達成できませんでした。「決議第31号」の27指標のうち、4指標が達成不可能という現実が、改革実行の難しさを物語っています。
また、公共投資の配分を変えるということは、既得権益との戦いでもあります。インフラ建設業界、地方政府、関連する省庁など、現状維持を望む勢力は強力です。
さらに、グローバル経済の不確実性も無視できません。米中対立、世界的な景気減速、金融市場の変動など、外部要因がベトナムの成長計画を狂わせる可能性もあります。
投資家としての心構え:長期視点での成長ストーリーを信じる
それでも、私は長期的にはベトナムの「質への転換」は成功すると信じています。
なぜなら、ベトナムには3つの強みがあるからです。
第一に「人材の質と意欲」です。平均年齢31歳の若い労働力、高い教育水準、強い学習意欲。これは他の東南アジア諸国にはない強みです。
第二に「政府のコミットメント」です。共産党一党体制の強みは、一度決めた方針を強力に推進できることです。今回のレポートが政府高官や有力エコノミストから出されたことは、改革への本気度を示しています。
第三に「外資の継続的流入」です。ベトナムは引き続き外国直接投資(FDI)の人気投資先です。特に米中対立を背景とした「チャイナ・プラス・ワン」戦略により、製造業の誘致は今後も続くでしょう。
ベトナム株投資家として重要なのは、短期的な株価変動に一喜一憂するのではなく、この「構造改革」という長期トレンドに沿って投資戦略を立てることです。
10年後、20年後のベトナムを想像してください。教育水準が向上し、イノベーションが生まれ、生産性が飛躍的に高まった社会。その時、今日投資した企業がどれだけ成長しているか、想像するだけでワクワクしませんか。
まとめ:「ベトナムの韓国化」への期待と現実
今回のニュースは、ベトナムが「次の韓国」「次の台湾」になれるかどうかの分水嶺に立っていることを示しています。
GDP成長率10%という目標は、決して不可能ではありません。TFPを50%以上に高め、ICORを4倍に改善し、公共投資を人材と技術にシフトさせる。これらの改革が実現すれば、ベトナムは間違いなく高成長軌道に戻れるでしょう。
そして、その恩恵を最も受けるのは、変革の最前線にいる企業です。FPT、CMG、VNGなどのIT企業、教育関連企業、DX支援企業、効率化技術を持つ企業。こうした「質の成長」をけん引する企業こそが、今後10年のベトナム株式市場のスター銘柄になるはずです。
私は、ハノイの街で毎日この「変化のエネルギー」を肌で感じています。確かに課題は多い。でも、可能性はもっと大きい。そう確信しています。
皆さんも、この歴史的な転換期に、ベトナム株投資を通じて参加してみませんか。
いかがでしたでしょうか。今回のベトナム経済構造改革について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
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